「のび太は、いいなぁ。」
いつもの座り方でパソコンの前のソファに座り、摘むような持ちかたでテーブルに置かれた綺麗なクッキーを一口食べたその時だった。
目の前の椅子に座っている恋人は唐突にそんなことを言い出す。
しかし言われた当の本人は、なんだか分からないような顔をした後、不満そうな顔をしながら恋人に返事を返した。
「のび太?」
「うん。のび太は、いいなぁ。羨ましい。」
「・・・・・誰ですか、それ。聞いた事のない男の名前です。」
口を尖らせてそう言ってみせるLの顔は
『私以外の男性の名前なんて口にしないでくださいよ』
とでも言いたそうに見えた。
そんなLに気づいたのか、慌てて『違う違う』というジェスチャーをしながら言葉の続きを話す。
「える、ドラえもんって、知らない?」
「あぁ、あの猫型ロボット。」
「そうそう。それで、いつもドラちゃんと一緒にいる勉強が出来なくてスポーツも出来ない、まるで冴えない男の子の名前が、のび太。」
「・・・・ひどい言われようですね、のび太君は。」
「だって、そうなんだよ。のび太のあまりの出来なささに未来に出来た孫が、こんなんじゃ僕が困る、って。んで、送り込んできたのがドラちゃんなの。
のび太をきちんと教育しよう、みたいな、ね。」
「なるほど。」
「実際のび太はドラちゃんに頼ってばかりで進歩してない気もするけどあえてそこは突っ込まないのね。でものび太に縋(すが)られて
ホイホイ道具を出しちゃうドラちゃんもドラちゃんだけどね。」
「そうですね、それではのび太君のためになりませんね。」
「でしょ?」
「それで?」
「ん?」
「どうしてのび太君が羨ましいんですか?」
のび太という存在がなんなのであるかを説明すればいいことなのに、ドラえもんが好きなのか、ドラえもんの話をしたら止まらなくなる。
それに見かねたLが気になっていた本題へと話を切り替える。
「あぁ。それね。聞いてたの?」
「・・・あんなに大きな声で言っていたのが独り言だったんですか。」
「独り言だったつもり。」
「聞いてしまったので気になります。」
「んー・・・だって、のび太だったら、いつでもえるに会えちゃうじゃない。」
「・・・・・・・・・・私、のび太君とは、面識ありませんよ。」
何を言ってるんだ、この子は。
そんな目でを見たLだったが、またもは『違うの違うの』と言いながら話を続けた。
「だって、ドラちゃんにどこでもドア出してもらえるよ。」
「それが羨ましいと?」
「うん。てゆうか、どこでもドアは誰でも羨ましがる代物だと思うよ。」
「そうですか。私はあまり外に出ないのであまり必要ありませんけどね。」
「私はすごく欲しいよ。」
「何処か行きたい所でもあるんですか?言ってくれれば連れて行ってあげますよ。」
「えるの所に、行きたいの。」
わけが分からない、そんな顔をしているLの隣へと移動した。
隣に来るとLの座り方を真似たような、そんな格好で座りLのほうをチラリと見やった。
「どこでもドアがあったら、・・・・どんなに遠く離れても、えるの所へとんでいける。」
「なるほど。」
「えるがお仕事で遠くに行ってしまったら、・・・・きっと、分かってても私、寂しくて耐えられなくなっちゃうから。」
「そうですか・・・。」
膝に自分の顔をちょこんと埋めてそう言うを見て、ニコリと柔らかく微笑むとそっと頭を包むようにして抱擁をかわす。
そして、こんなことを言うものだから、あっという間に不安や寂しさの感情は何処かへ消えた。
「どこでもドアなんて使わなくても、ずっと傍にいるので大丈夫です。例え、どんなに離れていても、私は貴女が望むのなら、すぐに貴女の元へと飛んでいきましょう。」
そう言ってみせれば、今まで見たことのないような笑顔で嬉しそうにしてる貴女がいました。
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ドラちゃん。
大好きなんです。