さよならさんかくまたきてしかく
しかくはなぁに?しかくはなぁに?
しかくはノート ノートは
ノートはあなたへ
隣の○○君
「ありがとう、流河君。」
「なんですか?」
「いや、いつも送ってくれて。」
「たいしたことじゃないじゃないですか。じゃあ、また明日。」
「(・・大したことだよ。)うん、また明日ね、バイバイ。」
「はい、さようなら。」
相変わらずの猫背でヒョコヒョコと歩いていく流河の後姿が見えなくなるまで見送る。
流河の姿が見えなくなると、も家へと入った。
家に入れば相変わらず人気のないこの家はなんだか自然とため息のでるような、そんな感じの雰囲気だ。
いっそもう一人暮らしと言っても過言ではなさそうな。
「うっし!!今日は流河君に与えられた指令を頑張りますぞー。」
提出期限が遅れているのに今更張り切る。
やる気満々な足取りで自分の部屋へと向かう。人気のない寂しい家でもきっとが明るい子だからやっていけるんだろう。
部屋に戻り机の上に無造作に放ってある流河に渡された1枚のメモを見つめうーん、とうなだれる。
「・・難しいんだよなー。ライトに和英辞書借りたけど、・・・・テスト終わったのに勉強してるなんてきっと一生に1度あるかないかの奇跡だよ。」
ぶつぶつそんなことを言いながら机の隣に置いてあるデッキにスイッチを入れた。
しかしそれはMDではなくラジオに切り替えられてありスピーカーからは小難しそうな話題が流れた。
『─・・続いてのニュースです。迷宮入り寸前、日本でも放火事件が多発した時期と重なり騒がれたイギリスでの連続放火・殺人事件。絶対に捕まらないと言われていたこの難事件。
今日未明で犯人が逮捕されました。犯人はウィリアム・ウォーレス、』
「迷宮入り寸前かぁ・・・犯人もさぞ悔しかろうに。」
『かの有名な、世界でトップを誇るとも言われている正体不明、謎の名探偵【L】の活躍によりこの事件を見事に解決。
しかしこの事件を解決したという当のLは全く姿を公衆の面前にはさらさず、この難事件よりもLの姿を暴くという事のほうがよっぽど難しいなどと』
「Lかぁー。・・名前は知ってるけど。・・・どういう人なんだろ。」
ラジオから流れるその話題に興味を示し耳を傾けている。
フーン、ヘェー、なんて相槌を打ちながら聞いている姿は勉強をしているときよりもよっぽど真剣にも見えた。
ラジオの話題がその話からそれると急にパソコンの電源を入れ、椅子に座りカタカタと動かした。
慣れているのか、早くにキーボードを打つその文字は【探偵 L】と打ち込まれている。
ネット検索で調べようとでも思ったのか。気になったら行動に移すというのは非常に関心する姿だが、肝心の流河の宿題は完全にそっちのけである。
「お、いっぱい出た。」
探偵 L、と検索するだけで何万件もヒットする。
しかしその中にLの素性となるものは全くない。
当たり前だ。ネット検索で簡単に調べられるくらいならば公衆の面前に姿を出さないという意味がわからない。
出てくるのはどれも今までLが解決してきた難事件や、Lに対するコメントやそんなものばかりだ。
「Lの顔知ってる人って、どれくらいいるんだろう・・いや、まさか世界の誰一人として知らないなんてことはないだろうに・・
やっぱスゴイ名探偵さんなんだから側近の一人や二人は、いるよね。きっと。
その人ならLの素性も知ってるのかな。・・・会えないって分かるとますます会いたくなるね。Lならこの英文も一瞬でわかるんだろうなー。そしたらやってもらいたいなぁ。」
好奇心旺盛なのか、なんだか馬鹿っぽいことを言いながらLに対してのイメージを膨らませてみてパソコンの画面を見つめている。
そして自分の発した言葉により、本来のやらなければならないことを思い出した。
「・・・あ、宿題。」
「竜崎、食べすぎですよ。」
「・・まだ10個しか」
「言われているんでしょう?竜崎の気になる方に。『糖分は控えたほうがいい』・・って。」
「・・・・今日はこれで終わりにしときます。」
モクモクとケーキを食べている竜崎に対して食べすぎだ、と注意をかねていうワタリ。
10個も食べれば十分でしょう、と思いながらも子供のように『まだ10個しか』と言い訳をしている竜崎に優しく微笑みながら
“竜崎の気になる方”という即効性のある注意をする。のことを言われ、皿をフォークでカチカチと鳴らしながら
仕方のなさそうにそれに従った。しかしの話題を出されると何処となく嬉しそうにしている。
そんな竜崎を微笑ましそうに見るワタリ。そして手に持っていたたくさんの資料を竜崎のテーブルの横に置いた。
「竜崎、頼まれていた資料、ここに置いておきますね。」
「あぁ。」
いつものようにパソコンのモニターと睨めっこする。
依頼されたもの、警察やFBIなどではどうにもならない事件。
全て自分にかかっている。
「L─・・・か。・・・それを知ったら」
さんはどう思うんでしょうか
私は─・・想いを告げてもよかったのか
そう思うや否や近くに置いてあったシュガーポットから角砂糖を一つつまみ出しそれをヒョイッと口の中にいれ、ガリっと軽快な音を立てた。
その瞬間をワタリに見られていたらきっとまた注意されていたに違いない。
「『The existence of you is big in me.』・・・、その存在、は、おぶ、ゆー・・私の中で、大きい、あなたは・・」
和英辞書を引きながら一生懸命単語を一つずつ調べている。
単語を調べるので精一杯なのかその言葉の意味を理解していないようだ。
「『You are only by the side,and happy.』・・・あなたは、おんりー・・、ただ、・・・傍に、・・いる。そして、嬉しい」
パラパラとぎこちなく単語を読み上げながら調べていく。
片言の発音でそれを読んでいく姿は真剣だがなんだか微笑ましい。
「『It always thinks about you. I cherish you unbearably. Would you be by the side of me?・・・More.』・・・長ッ!!
・・・・おーるうぇいず、・・いつでも、考える、・・・あなたを、私・・・あなたを、・・・チェリッシュ・・大切にする・・・、アンベアラブル・・?
・・・なんでこんな難しい単語ばっかり・・流河君、私の頭の程度わかってるのかな・・・。」
時折、ブチブチと愚痴を漏らしながらも頑張っている。
一瞬でこの文を英語にしてスラスラと言えてしまう流河に是非この姿をみせてやりたいものだ。
さぞ面白そうに見ていることであろうに。
そして手元にあるお菓子をつまみながらまだ続ける。
「あなたは・・・・さいどおぶみー・・・・私の、そばに・・いてくれませんか、・・・もあ・・・ずっと。・・・・できた!!!
・・・で、これをちゃんと文法的に繋げていけばオッケイ牧場だね。」
取りあえず単語一つ一つを繋げて文にしていこうとする。
一つ、一つ。
そして要約なんだかおかしいことに気がつき始めていた。
その単語の意味を改めて見てみると。
「・・・・・・・何これ。」
「なんですか、これ。」
「【日本女性の抱かれたい芸能人ランキング】・・だそうですよ。」
「見ればわかります。」
「女性の好みの男性のランキングではないでしょうか。」
「・・あぁ。」
なるほど、とそれを見る竜崎。
何故竜崎がそんなものを見ているのか、というのも、メールボックスに間違えて紛れてきたYah●oの宣伝メール。
カチカチっとクリックしたものの、飛んだページは芸能人ニュースやそんなネタばかり。
くだらない、とばかりに消そうとしたが、ふと目に入ったURLに飛んでみると【日本女性の抱かれたい芸能人ランキング】。
「1位は流河早樹らしいです。」
「今を駆けるアイドルですからね。」
「・・・さんは興味がないと言っていました。」
「よかったですね。」
にこりと微笑みながらそう言うワタリを横目で見ると、なんだか照れくさくなってきたのか目をそらした。
そしてジロリとその一覧表を見てみるが、なんだか分からない芸能人ばかりで眉をひそめた。
イギリスで生活していたためか、日本の芸能人には少々疎いようだ。
流河早樹は自分が偽名として使っているくらいだから流石に知っているが。
「・・後の人たちは・・なんだか、よく分からないですね・・。」
「調べてみますか?」
「いや、いい。」
と言いつつもなんだか気になっている様子だ。
女性からのコメントというものも記入してありそれにも目を通してみたが、やはり『かっこよくて最高』『王子様っぽい』など、
やはりルックス面でのコメントが多い。
口を尖らせながら、それを見ていたがなんだかつまらなくなってきたのかカチカチっとクリックしてそのメールを消してしまった。
つまらない、というよりも、なんだか不愉快になってきた、というほうが正しいかもしれない。
いくらがルックスで判断するわけではない、と言っていたって実際わからないし、という気持ちであろうか。
(さんを信用してないわけじゃないですよ。)
「もういいんですか?」
「あぁ、・・くだらない。」
「(くだらないと言いつつも、なんだか気にしているようですね・・。)大丈夫ですよ、竜崎。」
「・・何がですか。」
「さんはそういうのにあまり興味がないのでしょう?」
「・・・・・別に、そんなことは気にしていない。」
「ふふ、そうですか。」
「砂糖・・・」
「はい?」
「砂糖が足りない・・」
「さっき9個入れてましたよね?」
「甘さが、」
「ダメですよ、今日はもう。」
微笑みながらも大の甘党の竜崎にとっては酷なことをピシャリと言うワタリ。
ある程度は好きにさせているものの、流石に体のことになるとやはり心配なようでその辺はきちんと注意しているようだ。
しかし竜崎はむぅ、と口を紡ぎながらその紅茶をズズっとすすった。
「・・・おかしい。何度調べなおしても、・・・いやいや、これは・・・・・・・」
ノートに書きなぐった英文の訳を食い入るようにして見ている。
目をパチパチさせながらその文を見て顔が徐々に赤くなっていく。
「・・・・・・これは・・・・・そう、受け取って、・・いいのかなぁ・・?」
恥ずかしいのか顔を机に伏せてボソっとそう言う。
私の中で貴女という存在は大きい。
貴女が傍にいるだけで嬉しい。
いつでも貴女の事を考えてしまう。
私は貴女が愛しくてたまらない。
私の傍に、いてくれませんか?・・・・ずっと。
普通に見れば、どう見たって告白文である。
しかし、恥ずかしさ故と信じられない故か、ずっと机に顔を伏せたまま悩む。
普通にこれを告白文と取っていいのか、それとも本当にただの英文の宿題なんだろうか、そんな思いを馳せながらまたチラリとその文を見た。
「・・・・だって、・・・・・・・・・・・・・・私、流河君のこと、大好きだし。」
本当にただの宿題だったら、普通にかなり残念だし
しかもこれが本当に告白文だとしたら、私、最悪
かなりの時間、流河君のこと待たせたってことだ
・・・それに、これ、・・・どうやって返事を返せばいいんだろう
なんか、唐突に口で言うのも・・・なんか恥ずかしいし
「・・・・・どうしよう。」
翌日、いつもは楽しいはずの学校だったが、非常に重い足取りのはよく眠れなかったのか、目を赤くしながら教室へと入った。
それもそのはずだ、寝たのはもう朝方の5時で1時間ほどしか寝ていない。
眠そうに、そしてなんだかいつもとは違って余所余所しいそんな姿のを、珍しく早くに学校へ来ていたリコが見かねて声をかけた。
「、おはようっ。どうしたの、そんな目赤くして。」
「・・あー、リコおはよー・・。いやいや、なんかね・・・寝不足でね・・・・」
「大丈夫?保健室行って寝れば?」
「うん・・・少し、寝てこようかなー・・・1時間目終わったら戻ってくるよ。」
「大丈夫?ついてこうか?」
「ううん、大丈夫、ありがとー・・。」
リコに保健室へ行けと言われ、素直にそれに従う。
いつもならどんなに眠くても保健室など利用しないのだが、流石に1時間睡眠がキツいのか重い足取りで保健室へと向かった。
途中、廊下ですれ違う友達に何度か挨拶を交わされたがそれに対してちゃんと挨拶を返したかどうかも分からないほど眠さはピークに達していた。
保健室に着くなり、適当に保健室利用カードに仮病を書き勢いよくベッドへと倒れこんだ。
保健室のベッドはいつでもメイキングされているので非常に気持ちのよいもので眠さのピークに達しているにはものの数秒で眠れるものだった。
「ねぇ、知らない?」
教室では朝のホームルームが行われてもの姿が見えないのを不思議に思ったライトはリコに声をかけそう聞いた。
『なら保健室で寝てるよ』と言われ、珍しいこともあるんだな、と思いチラリと見ればの隣の席も、流河の姿も見当たらなかった。
流河のことだからまた休みか遅刻だろう、とその辺は軽く受け流しておきそのまま友達と移動教室の準備をして教室を出て行った。
「・・・・さん、」
「・・さん・・」
「さん。」
「後・・・・5分・・・」
「後5分じゃないですよ、いい加減、起きて帰りなさい。」
そう言ってを起こそうとしているのは保健室の先生。
後5分、なんて言っているを呆れたような目で見ている。
「もうとっくに授業終わってるわよ。」
「・・・あーー・・ハイ・・じゃあもう戻って授業受けます・・」
「6時間目がね。」
「あーー・・次確か・・・古典・・・・・・・・・・なんですと?」
「あなたが気持ちよく眠っている間に今日の授業終わっちゃったけど。」
「・・・・・・・マジですか。」
「マジですよ。」
「・・・スイマセン、なんか、」
「別に構わないけど、・・あんまり気持ちよさそうに寝てたから起こさなかったんだけど、なんかあなたのこと探してる子来たわよ。」
「はぁ。」
「名前聞いてなかったけど・・・なんかあなたよりも寝不足そうな子だったよ。目の下の隈が尋常じゃ」
「・・・・失礼しました!!!」
先生のその言葉を聞くなりベッドから身をガバっと起こし急いで保健室を後にした。
きっと、先生の言っているよりも寝不足そうな子っていうのは流河のことだろう、そう思った。
何の用があったのかは分からないが、自分を探してくれていたときに気持ちよさそうに寝ていたなんて大失態だ、しかももう授業が終わっている、
流河はもう帰ってしまったんじゃないか、そう思うとますます焦る。
(てゆうか・・6時間目終わるまで寝てるって・・!!あぁもう!!)
パタパタと廊下を駆けているところを丁度ライトとすれ違った。
すれ違いざま、ライトに気づかなかったのかそのまま横を通り抜けようとするところをライトが声をかけた。
「ッ。」
「はいよ!?」
「・・なんだその返事。」
「あ、ライト、何?どしたの?」
「いや、急いでるんだったらいいけど・・」
「急いでるってゆうか・・・あっ、流河君見なかった?」
「流河?いや・・アイツ3時間目に来てそれでまた帰っていったぞ。何しに来たんだかよく分かんないけど・・」
「3時間目で?」
「あぁ。なんか用でもあったのか?」
「用ってゆうか・・うん、まぁうん・・用かなぁ。あ、じゃあ私行くよ、じゃあねっ。」
「ん、あぁ。・・・・・落ち着かないヤツだなぁ・・。」
ふっと苦笑まじりに笑いまたパタパタと走っていくの後姿を見つめていた。
3時間目に来て3時間目に帰ったって・・ホント流河君は何しに学校に来たんだろう
相変わらず不思議な子だ
そんな不思議な子が大好きで仕方なくなってるんだけど
だからこうしてどうにかして流河君に会いたいんだけど
やっぱり校内にいるはずもないから、ちょっと外をグルグルと探し回って
だけどやっぱり居るわけない。当たり前だ。
だって3時間目に帰ったんだよ
今何時間経ってると思うんですか
それでも探してるのは、どうしても渡したいものがあって、伝えたいことがあって
なんだか今日じゃないとダメな気がして
あぁ、そうだ、もしかしたらいつものケーキ屋さんにいるかもしれない
走ってばかりのの息はもう切れ切れに呼吸をしていてすごくしんどそうだ。
それでもいつものケーキ屋まで走っていった。
しかしそこにはやはり流河の姿は見当たらない。
「いるわけないよねぇ。うん。・・・。」
疲れと脱力感からか、ケーキ屋の入り口の横にあるベンチにズルっと力が抜けたように座り込んだ。
はぁ、と一つため息を落として流河のことを考える。
あの時呑気に寝ていた自分が憎いぞ、そんなこと思いながら、もしかしたら来るかもしれない、そんな思いを馳せて少しここにいようと思った。
なんの根拠もないけどなんとなく、来るんじゃないかな、なんて思いながら。
連絡しようにも、流河のメードレスも電話番号も知らない。
なんだか、それだけですごく不安になった。
自分は流河のことをなんにも知らないんだ、と改めて思い知らされたようで。
「さんが、今日保健室で寝ていました。」
「具合でも悪かったんですか?」
「・・・・。」
「大丈夫ですよ、きっと。」
一方、来るという根拠もないのに待ち続けているを余所にいつものようにモソモソケーキを食べながらこれまたいつものようにパソコンの前で
小難しそうなことが並べられたモニターを見ながらワタリと会話をしていた。
保健室で寝ていたが気になっているのか、ふと動かしていた手を休めてワタリにそんな事を言った。
心配そうにしている竜崎を見てニコリと笑って安心させるようにそう言った。
大丈夫だといいが、そんなことを思いながらケーキにフォークを刺そうとするも、さっき口に入れたものが最後の一欠けだったらしくそこにはケーキの姿がなかった。
「・・・・ワタリ、ケーキが」
「はいはい、今お持ちしますね。」
と、竜崎のケーキを取りに行ったワタリだったが、すぐに戻ってきた。
しかし戻ってきたワタリの手には竜崎の大好きな大好きなケーキは、ない。
「ケーキ」
「すいません、今切らしてるみたいなので・・すぐに買ってきますね。」
「・・そうですか。・・・私も行きます。」
「珍しいですね、竜崎が自分も行くなんて。」
「たまには自分で食べたいケーキを選んでみたかっただけです。」
ノソっと腰をあげるとヒョコヒョコと歩き出しワタリに『早く行きましょう、私の食べたいケーキがなくなってしまうかもしれない。』
なんてワタリを急かした。
「学校の近くの」
「はい、いつもの所ですね。」
「あぁ。」
「竜崎はあそこのケーキ、一番好きですね。」
「あそこのは何処の高級なケーキよりも美味しいんです。」
「何故でしょうね。」
「とにかく美味しいんです。・・・因みにさんは桃のタルトがとても気に入っているみたいです。」
「そうですか。さんにも気に入っていただけて、よかったですね。」
竜崎はワタリと会話をしているとき、何気なくの名前を出す。
ワタリにはそれがとても微笑ましかった。
なんだか孫を可愛がるおじいちゃん、そんなようにも見える。
車で5分もすると『竜崎のいつものケーキ屋さん』が目に入った。
ケーキ屋が見えると待ち遠しそうに窓からヒョコっと顔を出している竜崎。
すると、急に目を見開き、急いでワタリに呼びかけた。
「ワタリ、止めてくれ。」
「え?はい。」
どうしたのか、と聞く間も与えずバタンと勢いよく車のドアを開けて飛び出す竜崎。
竜崎のその目の先にいるのは、ベンチにもたれかかって座っている女の子。
「、さん?」
「・・・・・流河君!」
「どうしたんですか・・こんなところで・・あぁ、具合はどうですか?もしかして帰っている途中に具合が悪くなってここで休んで」
「具合?」
「今日保健室で寝ていたでしょう?」
「あっ、・・・ゴメンね、それ、私ただ寝不足で寝かせてもらってただけで・・具合はなんとも」
「よかった、です・・」
心底ホっとしたよう表情でを見つめる流河に思わずドキリとする。
なんだか余計な心配をかけさせてしまったようで申し訳ない、と思いながら『ゴメンね、ありがとう』と流河に言った。
「いえ、さんが元気ならいいです。」
「流河君は本当に優しいね。」
「・・そうですか?・・・あぁ、それよりもどうしたんですか、こんなところで・・」
「流河君、来ないかなぁ、って思って、待ってたの。そしたらホントに来たから正直ビックリしたよ。」
「私を?・・なんでですか?」
なんだか期待してしまうじゃないですか
そんなことを、言われたら
柄にもなく、なんだか鼓動がいつもよりも早い気がします
「流河君が探してたって、言ってたから、・・保健室の先生が。」
違う
ホントは、
そんなのどうでもよくて
流河君に会いたくて
待ってただけ
来る根拠もないのに
「それで、待ってたんですか?」
「うん。あ、渡したいものがあったったいうのもあるんだけど、」
「私、実は3時間目に帰ったんですよ。」
「知ってる。ライトが言ってた。」
「それでも、待ってたんですか?」
「うん。」
「私がここに来るという根拠もないのに?」
「うん。」
「来なかったらどうしてたんですか?」
「え?・・・どうしてたかな?」
「・・・・ありがとうございます。」
「・・なんでありがとうなの?」
嬉しいじゃないですか
大好きな人が
ずっと自分のことを待っててくれたんです
私がここに来るという根拠もないのに
ただ、なんとなくで
自分の時間を裂いてまで私を待っていてくれたということが、すごく嬉しいです
「あぁ、それでね、そう、待ってたのはね、流河君に渡したいものがあってですね、」
「・・はい。なんですか?」
ゴソゴソと鞄から何かを取り出そうとしている。
その様子をただじっと見つめている流河。
そして鞄から取り出されたのは、一冊のノート。
「これ。」
「・・ノート、ですか?」
「そう。これをね、流河君に、どうしても。」
「ありがとうございます。・・なんだか、申し訳ないですね、いつもいつも借りている上にわざわざ待たせてしまって・・」
「私が勝手に待ってただけだよ。」
「じゃあ、明日返しますね。」
「・・・いつでもいいよ、返すの。」
「そうですか?」
「うん。じゃあ、私帰るね。」
バイバイ、と手を振ると早々にそのままそそくさと帰っていった。
流河はなんだかもう少し話していたいような、そんな表情で名残惜しそうに『さようなら』と言いながら親指を口に当てていた。
後に置いてきてしまったワタリを待ちながら今日はどのケーキを買おうか、なんて考えながら。
「さっきはどうしたんですか?」
「さんが、ケーキ屋の前にいた。」
「ほう・・それはよかったですね。」
「私が来るのを、待っていてくれたらしい。」
「おや、今日は待ち合わせでもしてたんですか?」
「いや、・・・私に渡したいものがあって待ってたらしい。・・・あそこに私が来るという根拠もないのに、だ。」
「ほっほっほ、それは─・・・竜崎にとっては実に嬉しいことじゃないですか。」
「・・・・はい。」
「さんという方も、なんだかとても意地らしい方ですね。少し、あなたと似ている。」
なんのことだ、とでも言いたげに運転しているワタリを見る。
ケーキも買ってご満悦な竜崎は、の話をしながらまた更に嬉しそうにしている。
がノートを渡すためだとは言え、来るかも分からない自分のことを待っていてくれたのが相当嬉しかったみたいだ。
─・・そういえば、さんは私になんのノートを
試験ももう終わっているのに
あぁ、提出用の・・相変わらず彼女は律儀だ
私が先生に怒られないように、授業が分からなくならないように、とでも思っていそうだ
彼女のノートは、いつも綺麗に書かれている
それが、たとえさんの大嫌いな数学でも
まぁ、これだけ綺麗に書かれているのにどうして数学だけはあそこまで分からないのだろう、とも思うが、
それさえも愛しいなどと思ってしまう私はおかしいのか
でも彼女は勉強ができないわけではない
この前、古典の小テストではほぼ満点に近い点数を取っていた(・・かという私は満点でした。)
どちらかというと文系の人なんだろう
そんなことを思いながらふと、改めてノートに目を見やると、いつもならノートの表紙にはきちんと『数学』『国語表現』などと
書かれているのに、このノートには何も書かれていない。
おかしいな、と思いつつ、ノートをパラっと1ページめくるとそこは白紙だった。
一瞬、が間違ってノートを渡してきたんじゃないかと思ったが、パラパラとめくる際に見えた小さな文字を見つけた。
それを見た瞬間、竜崎は目の色を変えたかのようにいつもよりも少し声を荒げてワタリに言った。
「戻ってくれ!」
「え?」
「さんの、家の近くまで、早く戻ってくれ!」
ワタリにそう言って急いで車をUターンさせた。
ワタリも忙しいものだ。
先ほどから行ったりきたりで。
だけどなんだかその表情はとても嬉しそうにも見えた。
やはり孫とおじいちゃんのような、そんな感情もあるのだろうか。
後ろの席では落ち着かない様子で窓の外をキョロキョロと見回しながらガリガリ爪をかじる竜崎。
「そこの角を右に、」
「はい。・・・しかしそんなに早く家に着いているでしょうか。」
「いなかったら、待っていればいい。」
「ふふ、そうですね。」
角を曲がり、5分もするとの家の前に着く。
いそいそと車から降り、の家のインターホンを押すが、やはり帰っていないようだった。
焦る気持ちを抑え、そこで待つことにした竜崎はワタリに『先に帰っていていい』、そう一言言った。
トボトボとなんだか情けない姿で帰路を辿るは、先ほどからため息ばかりついている。
いつもの元気そうな顔つきはなく、なんとなく疲れたようなそんな顔だ。
(あーーーー・・・・・渡しちゃった渡しちゃった渡しちゃった・・・・どうしよう、明日学校行きたく、ないよー・・あーーーーーーーーー・・)
何と葛藤しているのかはよく分からないが、なんだかノソノソフラフラと歩いている。
傍から見ればなんだか変な子に見えるがそんなの気にしていないようだ。
公園の前を通れば意味もなくフラフラ道草食ってみたり、家の前で流河が待っていることなんて露知らずちんたらちんたら帰っている。
ふと、立ち寄った公園でブランコを見たは先ほどまでため息をついたりしていたのにも関わらずなんだか物凄く乗りたそうな表情でブランコを見ている。
しかし今自分は一人だ。
いい歳した女子高生が一人でブランコに乗って楽しんでいるなんて実に滑稽ではないか。
(・・・・・・・・・やめよう。)
懸命な判断だ。
(どうせ今日もお母さんたち帰ってこないんだろうなぁー。あれ、お母さんたちに会ったのっていつだっけ。・・まぁ、いっか。)
(今日の夜ご飯どうしよう。作るのめんどうくさいなー。)
(そういえば確かレンジでチンするドリアちっくなものがあったかもなぁ。)
(あ、今日はエ●タの神様の日だ。)
(最近の若手はなんか・・・・うん。)
なんて、夜ご飯の心配をしてみたりくだらないことを考えてみたりしているうちに家の近くまで来てしまった。
ため息をつきながらなんだか悩んでいたことも忘れていたはずなのに(思い切りが早い)、家の前にいる人物をみて驚いたと同時に焦っている。
なんたって体育座りのような格好で家の前に座っている流河がいる。
他人から見ればただのおかしな子、変人である。
(なっ、え、う、わ、なんで流河君がいるんですかっ!!!!)
そんなこと思って焦っているのもつかの間、ふと顔をあげた流河に気づかれ目が合う。
そこでまたあたふたするが、流河がヒョコヒョコとこちらへ向かってくるのでもうどうしようもなく心臓が破裂してしまいそうな心境だった。
「お帰りなさい。」
「え?はい。ただいま。・・・じゃなくて。」
「はい。」
「あれ?えーーーと、どうしたの?帰ったんじゃないの?あぁ、あれ?もしかして道に迷った?あぁ、そっかそっか、じゃあ私が道案内を」
「さん。・・・あの、気は大丈夫ですか?」
「・・・・・多分。」
「そうですか、ならよかった。」
「(多分でもよかったんだ・・。)」
あたふたしているも、あんまりにも流河が冷静なのでもふと冷静になった。(流河が冷静なのはいつものことだ)
あぁ、これならよかった、と思っているのも束の間。
突然に流河が話に持ち込んだ。
「さん。」
「ん?」
「ノート、ありがとうございました。」
「・・・・・もう見たの?」
「はい。ありがとうございます。─・・だけど、いまいち理解できないのでさんにきちんと説明してもらいたいと思っています。」
「はい?なんですと?」
「ですから、意味が分からないので」
「何言ってるんですか、あなたは。」
「さんから、ちゃんと説明してください。」
「ずるい。」
「はい。」
「分からないわけ、ないでしょう。」
「分かりません。」
「・・・・。」
うつむき加減で顔を真っ赤にさせたは、ゆっくりと口を開いた。
「・・・流河君が好きなんだよ。」
「─・・・・・・・・。」
「・・・あの、なんも言ってくれないと・・その、・・虚しいんですけども・・」
「・・・・嬉しいです。」
「・・・・ずるい。」
「はい。私は自分は言わないなんて一言も言っていませんよ。」
「え?」
大きな真っ黒な目で真剣にを見つめる。
そして、ずっと口にしたかった言葉をついに、出した。
「さんが大好きです。─・・私と付き合ってください。」
心なしか、流河の頬が赤い気がしたが、目の前にいるは比べ物にならないくらい、その頬を赤くしていたのでそれも目立たなかった。
「本当に?」
「はい。」
「冗談じゃなくて?」
「当たり前じゃないですか。」
「だって、・・・宿題とか言ってあんな英文出すから、・・・最初は冗談かと思った。」
「分かりにくかったですか?」
「とても。」
「さんのノートも分かりにくかったです。」
「よく分かったね。」
「当たり前です。」
から渡されたノートは本当に『ただのノート』で、授業ノートでもなんでもなかった。
しかし、そこに書かれていることは、二人にとってこうしてつなぎ合わせるには十分すぎる一言だった。
何も書かれていない白紙のノートの真ん中のページには小さく、こう書かれていた。
【I like you very much, too.】
私もあなたのことが、大好きです。
「流河君なら、あんなに簡単な文すぐに分かったでしょう。」
「はい。」
「わ!な、じゃ、な、なんでっ」
「だって、さんの口から直接聞きたかったんです。」
「・・・うん・・。」
「それよりも、私、返事もらってません。」
「え?」
「付き合ってください、と言ったんですよ。返事をもらってません。」
改めてそう言われるとなんだかあっけらかんとしているような、いや、ただ流河の言い方が淡白なだけかもしれないが。
流河からその言葉を聞いても、あぁ、と言いつつも『私も好きって言ったから、・・じゃダメなのかな。』なんて思っていた。
「え、あ、・・はい、こちらこそ、」
「本当にいいんですか?」
「え?う、うん、」
「私ですよ?」
「流河君だから好きなんだよ。」
「ライト君みたいにイケメンでもありません。」
「流河君は、かっこいいよ。」
「私、負けず嫌いですよ。」
「知ってる。」
「独占欲も、人一倍、いえ、3倍くらい強いですよ。」
「・・なんとなく、分かる気もする。」
「我侭ですよ。」
「それでも好きだよ。」
「・・・・・本当に、いいんですね?」
「私は、流河君が流河君だから好きなんだよ。」
自分のことを何度も念を押すように確かめてくる流河を見て、なんだかおかしくなった。
照れくさそうに流河にそう言うと、その流河は嬉しさのあまりスっと手を伸ばしを自分へ抱き寄せた。
「大好きです、さん。」
「え?・・あ、ありがと、う・・・」
「本当に、大好きです。」
「あの、何度も言われると照れくさ」
「大好きです。」
「・・・私も大好きだよ。」
がそう言ったのを聞くと至極嬉しそうに笑い、道端にも関わらずまたギュっと抱きしめた。
嬉ながらも、いつご近所に見られるんじゃないかとハラハラしているを余所に。
すると、そうだ、と付け足さんとばかりに声を出すと、名残惜しそうに抱きしめているその手を離した。
「どうしたの?」
「一つ、もう一つだけ、さんに大事なことを言っておきたいんです。」
「うん?」
「一番言っておかなければならないことです。」
「うん・・?」
先ほどの真剣な眼差しとはまた違った真剣さで見つめてくる流河に、なんとなく息を呑み次に出てくる言葉を待つ。
そして言葉を溜めもせずに、スパっと言い放つ流河の言葉に、ものすごく驚くことになった。
「私はLです。」
****
取りあえず・・・1部終了、ですっ・・。
21話にも渡ってやっとかよ、って感じですね。笑
しかももう終わるみたいなこと言っててまだ続くのかよ、とか言わないでね。にこり
続いちゃいます。スイマセン。
あ、石投げないで。
次からは2部です。(どう違うんだよ。