「あー、もうすぐ2年だね。」
「そうですね。」
「2年かぁー。あ、2年になったら数学が選択になるよ。やっぴー。」
「絶対に取らない方がいいと思いますよ。」
「わ、分かってるよ。」
頭脳は大人、中身は子供 私の隣は名探偵
隣の○○君
竜崎お気に入りのいつものケーキ屋。
隅の方の席でケーキをつつきながらもうすぐ2年にあがることを話している。
早いものでもう2年生になるのだ。
1年なんて本当にあっという間なものだ。
「早いね、1年って。」
「早いですね。」
「入学してー、しばらく私の隣の席の子いなくてー、突然ひょっこり来始めてー、」
「私のことじゃないですか。」
「そうですよ。」
クスクスと笑いながらケーキをパクリと頬張る。
ここ最近彼女は体重が増えたなんだので甘いものを控えていたのだが、それももういつの間にか解禁されていて
こうして竜崎と一緒にいつもどおりケーキを食べている次第だ。
まぁ、ダイエットなんてそんなものである。
そのときはヤバイヤバイなんて言いながらある程度時間が経つと『もういいや。』と勝手に自分に甘い判断をし、
また大好きなお菓子をいつものように食べ、そしてまたヤバイヤバイと言い出し、・・そんなローテションである。
「2年になったらさぁー、やっぱり進学とか、そういうの考え始めないとダメかな。」
「どうでしょうね・・まぁいいところに行きたかったら今から考えないともう遅そうですけど。」
「そうだよねー。」
「さんは進学ですか?」
「んーー・・・分かんないなー・・どうしようか迷ってるんだ。」
「就職したいんですか?」
「したいわけでもないんだけど・・・。うん、なんていうか、やりたいことがいっぱいあってまだ決められないっていうか・・」
「やりたいことがたくさんあるのはいい事じゃないですか。きちんと考えて決めればいいんですから。」
「そ、そうかなぁ?」
「はい。まぁ・・そんなこと言ってる私は別段やりたいこともないんですけどね。」
もぐもぐとケーキを食べながら淡々と言う。
まるで『もうやることが決まっているので、他のことには興味がない』とでも思ってそうな。
「今の仕事があるから?」
「そうですかね。」
「そっかぁー・・でもさ、やりたいな、って思ったことはないの??」
「・・・ないですね。」
“L”なんだから仕方がないことなんだ、と分かっていても、やはり少し寂しいような気もする。
きっと“L”として生きてきたから、それ以外に見つけようがなかったんだ、がそう思えばまさにそれと同じことが竜崎の口から零れた。
「小さい頃からLとして生きてきましたから。それ以外に何をするなんて考えたことがなかった。いえ、考えようがなかったと言いますかね・・。
それだけが私のやるべきことだと思ってるんで。」
「小さい頃の将来の夢とかは?」
「特には・・・」
「えぇ、じゃあ今さー、ちょっと考えてみようよー。考えるだけならタダだよ。」
「今ですか?」
「うん。」
「急に言われても・・・あまり分かりませんね。さんはどうなんですか?」
「私の小さい頃?」
「はい。」
竜崎にそう聞かれ『なんか恥ずかしいなぁ』なんて言いながら話し始めた。
「まぁ、無難にセーラームーンになりたいとか・・なんか幼稚園のころそんなだった気がする。」
「・・あぁ、魔女っ子。」
「そうそう。魔女っ子なのかはよく分かんないけどその類。」
「非現実ですね。」
「いいのっ、小さい頃はなりたかったんだよー。あ、後ねー、動物園の人になりたかったしケーキ屋さんにもなりたかった。後マクドナルドの人にも。」
「可愛らしいですね。でもマクドナルドの店員だったら今でもなれると思いますよ。」
「あはは、そうだね。まぁ、小さい頃だし。後はお嫁さんとか、」
「え、誰のですか!?」
「え?」
「誰のお嫁にっ・・・」
「え、いや、分かんないけど・・・誰かの・・・」
心底困ったような表情で急にその話に食いつく竜崎。
小さい頃の夢なんだから誰のお嫁さんになりたいだなんてまであまり考えていなかっただろうに。
そんなことは先ほどまで重々分かっていたはずなのに竜崎はあわあわしている。
「だ、誰かのなんてそんなアバウトな・・・」
「た、ただ単にお嫁さんって存在に憧れてたんだよー・・きっと・・ホラ、ウェディングドレスとか可愛いしさぁ。」
「着たいんですか?」
「うん。だって可愛いもん。」
「着させてあげましょうか。」
「・・・え?」
「将来的に。」
「・・・・・・・え、あの、」
それはそういう意味で取っていいんだろうか、目を右左に泳がせながら言葉をどう出していいか分からない。
ただ試しに着させてくれると言っているのか、それとも、・・・・どうなんだろうか、竜崎の言うことは突発的すぎて分からない。
そう思っていたところ、口を尖らせ少し残念そうな顔をして竜崎がまた言葉を続けた。
「・・・・いえ、別に嫌でしたらいいんですけどね・・・さんだってそういうものはまた別物だと考えているのかもしれないですし・・」
「え、え、あのっ、」
「なんですか?」
「いや、そ、そ、それってそういう意味で、」
「他にどういう意味があるんですか。ただウェディングドレスを着させるだけなんて・・・恋人のすることですか?」
「・・・・・・・・。」
「・・ですから嫌でしたら、」
「い、いいの?」
「はい?」
「いいの?」
「いいも何も・・・嫌だったら私はそんなこと言いませんけど。冗談は苦手なんで。」
「・・・、う、うわぁ・・・ど、どうしよう・・」
「?」
両手で口を押さえてさらに顔を赤らめ喋り始めた。
自分の思っていた反応と全く違う反応見せられた竜崎はきょとんと目を丸くしながらの言葉の続きに耳を傾けた。
「あ、あのね、」
「はい。」
「私、私もね、流河君とずっと一緒に居たいなぁ、って、思ってたの。」
「・・それは・・すごく嬉しいですね。」
「でもね、」
「はい。」
「流河君って、Lだから。・・Lだからやっぱりずっと一緒にいるのって無理なのかな、て思ってたの。」
「さん・・」
「ずっと一緒に居たいけど、流河君はLだから、・・・いつか私から離れていっちゃうんじゃないか、って。思ってたんだ。」
「・・はい。」
「でも、流河君が、そうやって言ってくれたの聞いて、すごく嬉しくて。」
そう話すの顔は本当に嬉しそうだった。
一方竜崎は、彼女が自分と一緒に居たいと言ってくれたことの嬉しさの反面、なんだか少し申し訳なくなった。
確かに今、『結婚したい』という意味でウェディングドレスの話をした。
それは紛れもなく嘘ではなく本当の気持ちで、が竜崎と一緒に居たいと、竜崎もまたとずっと一緒にいたいと思っていた。
しかし、今に言われたこと。
『流河君はLだから、やっぱりずっと一緒にいるのって無理なのかな。』
『いつか私から離れていっちゃうんじゃないか、って。』
そう言われ、自分の立場を改めて実感させられた。否、分かっていたのだけれど、彼女と一緒にいるときは考えたくなかった。
100%、“ずっと一緒にいてあげられるよ”と言える保障は何処にもない。
Lという立場にいる限り、いつ危険な目に合い自分がどうなるのかも分からないし、仕事上いつ何処に、遠くに行くかも分からない。
そんな状況で彼女に“ずっと一緒にいましょう”なんて言えるのだろうか。
そう、改めて実感させられた。
彼女だってそんなことを考えていたのに自分はよくも呑気にそんなこと簡単に言ったものだ、竜崎はそう思った。
「私は、さんとずっと一緒に居たいと思ってます。・・でも、」
「うん・・?」
「さんが言うとおり私はLです。」
「・・うん。」
「馬鹿ですね、私は。」
「え?」
「結局自分のことしか考えていませんでした。自分がさんと一緒に居たいと思っていても、・・・・100%それを保障できるという確証はないのに。」
竜崎の言いたいことは、分かった。
多分、今まで見たことないぐらい申し訳なさそうにしている。
と言っても、元々あまり感情が表情に出ない彼なので表情に出ているわけでもなく、雰囲気ではあるが。
「でもね、流河君。」
「・・・はい。」
「ずっと一緒に居たい、って流河君が思ってくれてたこと嬉しいよ。それにさ、100%、ずっと一緒にいれる保障なんて流河君じゃなくても、そうだと思うよ。
Lだから、じゃなくて、それは人間だったら当たり前だと思うよ。もちろん私だって今はずっと一緒にいられる、って思ってるけど、それだっていつか変わっちゃうかもしれないもの。
・・あんま考えたくないけど。」
だからそんなこと気にしないで、そう言ってにこりと笑った。
彼女のこんな言葉に自分はどれだけ感謝してきただろうか。
「・・・なんて、言ってみたけど、・・・いざ流河君がいなくなっちゃったら私、すごく寂しいし、嫌だなぁ・・。」
「当たり前の気持ちですよ。私も、嫌です。」
「じゃあ、それまでは、一緒に居て?」
「はい。約束です。」
「うん。」
「さんもですよ。」
「うん。・・・多分、私は、」
流河君が離れてちゃっても、ずっと好きだと思う
あんなこと言ったけど、本当はずっと一緒にいるって、言って欲しかった・・・なんて。
「なんですか?」
「ううん、約束。」
「・・・?」
「よし、そろそろ帰ろう?」
「そうですね。」
そう言ってお会計を済ませる。
『いつも有難うございます。』、店員さんの挨拶と共に店を出た。
「流河君のとこ、行っても平気??」
「いいですよ。来てください。」
「やった。」
「・・・いつも思ってたんですけどね、」
「うん?」
「さん、そんなに私のところ来てて平気なんですか?」
「え?なんで?」
「ご両親は何も言わないんですか?」
「うーーん、とね・・・両親はあんま帰ってこないし、放任主義っていうか。」
「大丈夫なんですか?」
「うん、それに親も帰ってくるの夜遅かったりさ、泊まりだったりすること多いから。大丈夫さっ。小さい頃からそうだったし、慣れちゃったよ。」
慣れちゃったよ、と言いつつも少し苦笑気味でそう言う。
そんなを見て、『一人で寂しくないですか?』と聞きそうになったが、聞けなかった。
彼女が寂しそうな目をしてたから。
いつも平気だと言ってるが、今初めて見た。
彼女が寂しそうな目をしたのを。
一人でいるのが嫌だから自分の所に来ているのかもしれない、竜崎はそう思い言葉を出さなかった。
「この前食べなかったでしょう。」
「何を?」
「さんが好きだと言ってたケーキ。体重がどうとか言って食べませんでしたよね。」
「あー・・・うん。あは。」
「食べますか?」
「あ、食べる食べるー。」
「また取り寄せました。」
「え、有難うっ。」
「いいえ。」
もう空は暗くなりかけていた。
いつものように手を繋いで帰る二人の影がいつもより長い気がした。
*****
どうでもいいけど私はアニメのミサミサの声が好きじゃないです。