『おとなになっても、ずっとずっと、いっしょにいようね』
小さい子のような、こんな単純な言葉
だけどそれだけで十分だ
頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。
隣の○○君
「お時間ありますか?」
少し、控えめな感じで言うのは最愛の恋人
電話越しで、そう言われた。
もちろん、自分の目の前には山積みされた資料がまだある
だけど彼女との時間を過ごしたい一心でそれを1時間半で終わらそうとしたのは我ながらすごい
「はい。でも二時間、いえ、一時間半ほど待ってもらえませんか?」
そう言えば申し訳なさそうにこう言った
「あぁ、ううん、たいしたことじゃないからいいの、お仕事邪魔してゴメンね。」
何を言っているんだ
なんでこう、すぐ身を引こうとするんだろうか
気を使ってくれているのだろうけど、彼女はいつもそうだ
私が貴女に会いたいという気持ちが届いていないんだろうか
「え、来ないんですか?」
『だって、お仕事中だったでしょう?』
「はい、でもすぐに終わらせます。」
『そ、それがダメだってば・・そんなムリしてたら体持たなくなっちゃうでしょ。』
「会いたいんです。」
『・・・、でも私、もの凄くくだらない事で電話しちゃったんだけど。』
「いいですよ、全然構いません。待っててくれますか?」
『あ、私はいくらでも・・・でもあんまりムリしないで。早く終わらせなくてもいいから、ね?』
「有難うございます。終わったらまた連絡します。」
『ありがとう。』
と、電話をしたのは一時間前だった。
一時間後に、竜崎はを迎えに行っていた。
一時間半で終わると言っていたのに、実際この男は一時間でやり遂げてしまった。
そんな竜崎に感服しているだったが、自分がいかにくだらない理由で竜崎に電話をしたのかと思うと申し訳なさすぎてどうしようかと思っていた。
「一時間半って言ってたのに・・・」
「早くさんに会いたかったんです。今日は日曜で学校もなかったですし・・・」
「う、うん・・・でも」
「でももモヤシもないです。」
(・・・モヤシ?)
「さんがいかにくだらない理由だと思おうと、それがさんに会える理由になるのでいいんです。」
だから気にしないでいいんです、そう言うと少し安心したような表情になった。
そして『お仕事お疲れ様。』と言ってやれば、子どもが親に褒められたように物凄く嬉しそうな表情をするもんだから
は竜崎が可愛いな、なんて思わずにはいられずにっこり笑って無言で竜崎の頭をポムポムと撫でていた。
多分、親のような気持ちになったんだろうが、竜崎はいきなりそんなことをされて『?』な顔をしていた。
「それで、どうしたんですか?」
「あ、えっとねぇ・・・」
「はい。」
スっと、青い手提げ袋を出す。
何が入っているのか分からない竜崎は、きょとんとしながらそれを見た。
「なんですか、これ。」
「あのね、一緒に見て欲しいんだ、これ・・。」
ゴソゴソと青い手提げ袋から取り出したものは、DVD。
この青い手提げ袋はDVD・CDレンタルショップTSU●YAの袋だというわけだ。
「DVD?」
「う、うん・・。」
「私と?」
「う、うん・・。」
一緒に見て欲しいだなんてそんな可愛らしくお願いされたら嫌だなんて言えるわけがない。
いや、もっとも断る気は毛頭なかったんだろうが。
どんな内容なのかと気になってDVDのパッケージをよく見ればそれは
「・・・・・ホラー物、ですか?これ。」
「う、うん。」
「・・・。」
「・・・。」
「恐いんですね?一人で見るのが。」
「いや、違う、違うの。あの、その、あれだ、流河君、こういうの見るかなーって思って・・」
「なんでですか。」
「なんとなく・・・。」
いや、素直に恐いと言えばいいだろう、そう思う竜崎だったが彼女が一緒に見て欲しいと言うんだ、
その辺は突っ込まないで一緒に見ておこうか、そう思いDVDをデッキに入れスタンバイした。
「電気消しますか?」
「え!?なんで!!?」
「雰囲気出ますよ。」
「い、いいよ、電気は・・・。」
「そうですか。」
再生ボタンを押す。
竜崎の隣でクッションを抱きしめながらクッションから顔を半分だけ出しながらテレビを見ている。
竜崎はそんなの様子が面白いらしくテレビなんて見向きもせずを見ていた。
始まって10分
クッションから半分顔を出しているは時折『ひゃっ』『うあ・・』『ぐぅ・・』など恐いんだかなんだか
よく分からないような小さな悲鳴をあげながら見ている。
やっぱり、そんなの様子が面白くてたまらない竜崎はを観察している。
竜崎にしてみれば、こんなホラー映画子供だましにすぎない、なんていかにも非科学的な考え方だが、
きっとはこういうものを信じているタイプであろう。
「・・・け、結構、怖いね・・・・!!これ・・・!!!」
「そうですか?」
「・・・怖くない??」
「はい。」
「・・・ふぅん。」
「怖いの苦手なんですよね、さん。」
「なんで?」
「・・・・いや、反応見てれば分かりますよ。」
「・・・うん。」
「なんで怖いのに怖くないとか言うんですか。」
「・・・かっこわるいじゃん。」
「・・は?」
「怖いの怖いって言ってるのとか、かっこわるいじゃん。」
いや、別にかっこ悪くないだろう。
何を思春期の男子のようなことを言ってるんだろうか。
何を基準にそう思っているんだろうか、この子は。
そう思いながらも、『あぁ可愛いな』なんて思ってしまう竜崎。
重症患者だ。
「かっこわるくないです。」
「そ、そう?」
「はい、別におかしくないですよ。」
「そ、そっかそっか。」
「怖いの苦手なのに・・・なんでこういうの見たがるんですか。」
「怖いもの見たさっていうか・・」
「でも怖いんでしょう?」
「うん。」
まぁ、なんとなく気持ちは分からなくもないが・・・、相変わらずクッションを強く抱きしめながらテレビを見ている。
眉間に皺を寄せて泣きそうな顔をしている。
そんなに怖いのなら見なければいいのに、そう言おうかとも思うぐらいはなんだか可哀想な顔をしていた。
「流河君ってさ、」
「はい。」
「おばけとか幽霊信じてなさそうだよね。」
「そうですね。非科学的なものですしね。」
「やっぱり。」
「さんは信じてそうですよね。」
「だってさ、下よ●こさんとかスゴイじゃん。」
「夜中にトイレに行けなくなってしまうタイプですね。」
「う、うるさいよ・・・。」
「あぁ、そうなんですね。」
そうこう話している最中も、テレビの中では『ぎゃーーー!!』『うわーー!!』など幽霊におびえる悲鳴が聞こえてくる。
その悲鳴が聞こえるたびにの肩はビクっと上がり、竜崎と話しながらもそっちが気になって仕方ないようだった。
ふと、テレビを見やれば丁度タイミング悪く幽霊の恐ろしい顔がドアップに映し出されているシーンだった。
「うおっぷ!!!!」
あまり女の子らしい悲鳴とは言えないが、悲鳴をあげた本人は相当怖がっているようだ。
竜崎は助ける気はないらしく、ずっと面白そうにその様子を見ている。
が竜崎に助けを求めるように手をパタパタとさせているが、何をしたいのかよく分からないし。
「そんなに怖いなら止めますか?」
「・・・!!」
でも流石に涙目で今にも死にそうな顔をしている恋人を放っておくのも可哀想なのでそう聞いた。
無言でコクコクと頷く。
停止ボタンを押せばテレビから聞こえる悲鳴も、から聞こえる悲鳴もスっと消えた。
「・・・・・・。」
「大丈夫ですか?」
「・・・うん・・・寿命が3時間くらい縮まったよ・・・。」
「微妙な数値ですね。」
「ゴメンね・・一緒に見てくれとか言ったくせに・・仕事も早く終わらせてくれたのに・・・」
「いいですよ。面白かったですし。」
「すごいね、あれを見て面白いって思えるの・・・」
「いえ、さんの反応を見てるのが面白かったです。」
「・・・・・・。」
やっぱりこの人愉快犯だな、なんて思う。
青い手提げ袋にDVDをしまい、疲れたようなため息をついた。
「もう怖いのは借りないよ。」
「と、言いつつまたきっと借りてきますよ、さんは。」
「なんで。」
「いえ、そういうタイプかと。」
図星である。
このタイプは怖いと言いつつも気になって見たくなり、また同じことを繰り返すのだ。
「流河君ってすごいね。」
「図星ですか。」
「うん。今までそうだったかも。」
「やっぱり貴女は分かりやすい人ですね。見てて飽きませんけどね。」
「・・・流河君も見てて飽きないよ。」
「私はつまらない人間ですよ。」
「や、流河君面白いよ。」
「さんだけですよ、そんなこと言うの。」
だから嬉しいんですけど、後ろから包むようにして抱きしめる。
少し恥ずかしい気もするけど、こうされると落ち着くし安心するのでは竜崎にこうされるのが好きだ。
多分、竜崎もそれを分かってるんだと思う。
窓の外を見れば、夕焼けの西日が射してまぶしい。
「日が落ちるの、遅くなってきたよね。」
「春ですから。」
「四季があるのは日本だけなんだよね。」
「そうですね。」
「流河君は外国行ったことあるんでしょ?」
「はい。まぁ、イギリスで育ったというか・・」
「え、イギリス人なの?」
「さぁどうでしょう。」
「もし流河君がイギリス人だったらさぁ」
「はい。」
「・・・・・・・ゴメン、なんでもない。忘れて。」
「なんですか。言ってください。忘れませんよ。」
「嫌だ。」
「嫌だと言われると余計に聞きたくなるんですけどね。」
「ぜ、絶対言わない。今回だけは絶対に言わない。」
「そう言われると本当に気になって仕方ないですね。仕事できないかもしれません。」
「う・・・うそでしょ、それも。絶対言わないからっ!!」
「教えてくださいよ。」
「絶対言わない・・・!!」
そっぽを向きながら自分の言ったことなのにかたくなに言わないと豪語する。
竜崎に背を向けたのは顔が真っ赤になっているのが自分でも分かるぐらい熱かったから。
面白がってべったりにひっつきながらしつこく聞こうとしている竜崎の体温さえも少し冷めてる感じがした。
「さん。さんー。」
「・・・・・・・・。」
流河君がもしイギリス人だったら
もし結婚できたときには私の苗字、イギリスの名前になっちゃうね
心なしか、竜崎の頬も少し紅く染まった。
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結局はイチャついてるだけじゃないか。笑
最後だけ甘くしてみたよ。