ザーザーザー
雨の音は嫌なことを全て、消してくれるような気がする
「ねぇ・・・そんなところで・・・寒かったでしょう?」
頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。
隣の○○君
天気予報で降水確率は60%だった。
やっぱり降ってきた。
しかも、結構ザーザー降り。
折り畳み傘じゃなくて大きな傘を持って外に出てよかった。
降水確率が60%なのに、なんで外に出てるのかって言えば流河君に会いに行きたいから。
迎えに行きますよ、って言われたけど、いっつも気を使わせてばっかで嫌だし、それに仕事も忙しいだろうから。
そんなこと気にしないでください、って言われそうだけど、気にせずにはいられないでしょう。
そんな流河君が少しでも疲れが取れればいいなぁと思って今日はアップルパイを作った。
(うーん・・・流河君のとこに着く前にビショビショになっちゃったら嫌だなぁ・・・。急ごう。)
歩くたびにピチャンピチャンと足音。
傘には上からボトボト、雨音が聞こえる。
本当、大きめの傘でよかった。
片手に傘、もう片手にはアップルパイと自分の荷物が少々入った鞄。
濡れないように胸のところで抱えるように持った。
(今日の雨、冷たいなぁ・・・。)
冷たいから、手もあまり自由に動かない。
曲がり角の公園に差し掛かったとき、あぁ、なんで自分ったらこういう場面に遭遇してしまうんだろうかとも思わずにはいられなかった。
だって、そんなところ見たら見過ごしていけるわけがないでしょう。
「・・・さん・・・さん大丈夫ですかね・・・?」
「竜崎、そんなに心配なら迎えに行けばよかったのでは?」
「それをさんが断ったんです・・・。」
「そうなんですか。」
「きっとさんのことだから私は仕事が忙しいから気を使わせたら悪いとか、そんなこと思ったに違いないですよ。」
「そうでしょうね。さんは優しい方ですから。」
「だけど、たまにそういうところ嫌です。」
「なんでですか?」
「自分のことは心配しないで人のことばっかりで。・・・・私はさんのほうが心配なのに。」
そういって爪をかじる。
その様子をワタリは優しく笑いながら見ていた。
迎えに行っても行かなくても、結局は仕事の進み具合なんて変わらないのだ。
迎えに行けば、迎えに行っている間仕事はできない。
迎えに行かなければ、が此処に来るまで心配で仕事に手がつけられない。
どっちにしろ同じことならば迎えに行って彼女の安全を自分で見守っているほうが断然いいのに、そう思う竜崎。
しかも今日は雨。
結構雨足も強い。
竜崎の心配は募るばかりで仕事は全くはかどらない。
そんなときだ、竜崎の携帯が鳴ったのは。
─・・ピリリ・・ピ、
「ハイ!?さん!」
からの電話はワンコールで出る男竜崎。
待ちわびていたかのように携帯電話を取り彼女の声を聞く。
もう着くからね、そんな言葉を期待していたのに。
彼女の声は偉くテンションが低かった。
「さん?どうしたんですか?」
『・・・・流河君。』
「はい?今何処にいるんですか?」
『・・・・・ううん。まだ家の近くの公園・・・』
「どうしたんですか?家を出るって電話を貰ってから随分たちますけど・・なにかあったんですか?」
『・・・・・・・・。』
「・・・・さん?」
『・・・・・・ぃ?』
小さく消え入りそうな声、雨にかき消されてしまいそうな声で言うもんだから、彼女がなんて言ったのか分からなかった。
彼女の声のトーンが低いのが偉く心配だが、別にケガをしたとか、そういうわけでもなさそうだ。
「すいません、聞こえなかったんで・・・もう一度いいですか?」
『・・・・・・流河君・・・動物きらい・・?』
「・・・・・はい?」
どうしたのかと思えば、そんな質問。
だけど、竜崎にはなんとなくその意図が分かった。
「・・・・・いいですよ?」
『・・・・・まだ何も言ってないよ?』
「分かりますよ、さんのことですし。取りあえずは、いいですよ。」
『ありがとう・・・。』
「風邪をひいてしまいます、迎えに行きます。」
『ううん、今から急いで』
「いいえ、ダメです。すぐに行きますから、待っててください。」
『・・・ん・・。』
そう言って電話を切った。
急いでワタリに車を出してもらい、の家の近くの公園まで飛ばす。
公園の曲がり角に差し掛かると何か必死に守るようにしてうずくまって傘を差している彼女がいた。
「さん。」
「流河君、ゴメン、あの、」
「いいから、早く乗ってください。本当に風邪ひいてしまいますから。」
「・・うん。」
そう言ってを急いで車に乗せた。
傘を差していたけど、雨脚が強かったためか洋服は濡れているし、冷たそうだ。
やっぱり迎えに行けばよかった、なんて思っていたが、今はそんなことを言ってる場合じゃなかった。
「・・・それ。」
「・・・・・ゴメン。」
「いえ、・・・・ノラですよね?」
彼女が守るようにして抱いていたのは、小さな小さな子猫。
がいつまでたっても竜崎の所に来なかったのはこの子猫が理由だったのか、と。
「公園に、捨てられてたの・・・。」
泣きそうな顔でそのことを話しはじめた。
子猫の頭を大事そうに撫でながら。
に撫でられながら、子猫も気持ちよさそうに目を瞑っていた。
雨でビショビショになった体をタオルで拭いてやった。
「ダンボールにね、入ってたの・・・布、一枚だけ入ってるだけだったんだよ?」
「・・可哀想で?」
「・・・・だって、このままほっといたら死んじゃうよ、寒さで死んじゃうか、・・保健所で、・・・・・まだ、こんなに小さいんだよ。」
ボロボロと涙をこぼしながら竜崎にそう伝えた。
泣いているを見て竜崎はあわあわとしながら『な、泣かないでください・・分かってますから・・』とをなだめている。
「放っておけなかったんですね。」
「・・・うん。」
「優しいですね。」
「・・・・・優しくないよ。」
「優しいですよ。」
「・・・・だって、こうして抱き上げてしまったくせに、自分はどうすることもできないんだよ。うちは放任主義だけど、動物は飼っちゃダメって
ずっと言われてたから、飼ってあげられないの。・・・・それなのに、こんなに簡単にこの子を抱き上げてしまったの。
・・・・・放っておけなかったとか、そんなのただのエゴ。」
「だけど、そのエゴでその猫は少なくとも、今生きているだけの時間は守られたんじゃないんですか?
さんが抱き上げてあげなかったら、此処にいなかったんですから。」
だから泣かないで、そう言った。
竜崎があやすように頭をポンポンと撫でると、も落ち着いたのかゴシゴシと目をぬぐった。
「取りあえず・・・その、飼い主が見つかるまで、・・・私のところで預かりますから。」
「・・・・・・・え?」
「なんですか、そんな驚いた顔して・・・」
「・・・だって、そんなこと言ってくれるなんて思ってなかった。」
「他ならぬさんの頼みごとなら、なんでも聞きますよ私は。」
「・・・・ゴメンね?ありがとう・・・。」
がそう言うと、子猫も『にゃぁ』と小さく声をあげた。
も子猫も雨で濡れてるのでまずはお風呂に、とワタリに勧められた。
申し訳なさそうにまたも、ここのバスルームを借りることになった。
子猫も一緒に。
「え、猫も一緒にですか?」
「・・うん?ダメ?」
「・・・・ズルイです。」
「ゴ、ゴメン・・流河君も猫触りたいよね・・じゃあお風呂は流河君が」
「ち、違います!」
「・・・うん?」
「私だってさんと入ったことないのに・・・猫に先を越されました・・・。」
「!!」
子猫に対抗心を燃やさなくても、とも思うが竜崎は本気らしいので何も言えなかった。
言えなかったが、それで竜崎と風呂に入るということはなく、このままは子猫と一緒に風呂に入った。
30分もするとも子猫もさっぱりとして風呂から上がってきた。
さっきまで泥がついたりしていたのに、綺麗になった子猫はの腕の中で気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
「お風呂ありがとう、流河君。」
「いえ、全然いいですよ。今度は私とも入ってくださいね。」
「・・・・・・・や、それは・・・」
「・・・・・。」
別にこの子猫は嫌いだというわけではないらしいが、恨めしげにの腕の中の子猫をじぃっと見つめた。
風呂から上がってグッドタイミングとでも言うべきか、ワタリが子猫にミルクを運んできた。
「お腹空いてるでしょうから、これを。」
「わぁ・・ありがとうございますワタリさん・・!」
「全然構わないですよ、もし何か他にも欲しいものがございましたら、言ってくださいね。」
「あああ、有難うございます・・・!」
ワタリが用意してくれたミルクを皿に移し、子猫にそれをやるとよっぽどお腹が空いていたのだろう、
嬉しそうにそれをペロリと舐めている。
「かわいい。」
「はい。」
「・・・本当に大丈夫?」
「なにがですか?」
「お仕事の邪魔になっちゃわない?」
「いいですよ、子猫用に違う部屋与えますし。」
「(・・・スゴイなぁ・・・)」
「飼い主、見つかるといいですね。」
「うん、可愛がってくれるような人探すの頑張るよ。」
「私も手伝いますから。」
「いいの?」
「当然です。ワタリにも色々あたってもらいますよ。」
「なんか・・・何から何までほんと、ゴメンねぇ・・。」
「気にしなくていいです。・・・子猫のため、というのも少々はありますけど、一番大きな理由は貴女の悲しそうな顔を見たくないからですよ。」
だからいいんです、これでさんが笑ってくれるなら。
そう言ってしゃがみこんで子猫がミルクを飲んでいる様を覗いた。
竜崎のそんな言葉が嬉しくて、嬉しくてたまらなくしゃがみこんでいる竜崎の背中にぎゅうっと抱きついた。
「さん?」
「流河君、ありがとう。大好き。」
「・・・なんか、こう、さんに唐突に言われると照れますね。」
「自分はいつも言ってるのに。」
「私はいつもじゃないですか。さん、たまにしか言ってくれませんから。」
「・・・言うのはたまにだけど、いつも大好きだって思ってるよ。」
後ろから回されているの手をぎゅうっと握り、嬉しそうにした。
相変わらず子猫は美味しそうにミルクを舐めている。
「この子、名前、つけてもいい?」
「なんで私に聞くんですか?」
「・・・名前つけると愛着わいちゃうでしょう?」
「離れがたくなるってことですね。」
「うん。」
「いいじゃないですか。つけてあげたほうが。子猫とか猫とか言われててもそのほうがおかしいですよ。」
「うん、じゃあ名前つけよう。」
どうしようか、と唸りながら改めて子猫の姿をまじまじと見つめた。
薄いグレーに少し黒のしましまが入っている。
「・・・・ううん・・どうしようかなぁ・・・グレイとか名前つけると宇宙人みたいだし。」
「そのまんまじゃないですか、灰色って。」
「うん。」
「じゃあしましまでいいじゃないですか。」
「それもそのまんまだよ。」
「じゃあそのまんまグレイで。」
「そのまんま東じゃないんだから。」
名前をつけるということはこんなに悩むことなんだ、と実感した。
が悩んでいる間も子猫はミルクを舐めている。
時折こちらをチラリと見て不思議そうにしている姿はなんとも愛らしい。
「可愛いなぁ・・・。」
「決まりましたか?」
「うーーーん・・・・」
「さんの好きなものとかの名前は?」
「好きなもの・・・桃。」
「モモですか。」
「でもこの子、オスなんだよ。」
「可愛すぎますね。」
「うん。」
「他には?」
「そうだなぁー・・・・あ、」
何か思いついたらしいが、言葉を詰まらせている。
その様子を不思議そうに見つめる竜崎と子猫。
「思いつきましたか?」
「うーん、ついたんだけど、」
「なんですか?」
「・・耳かして??」
「誰もいませんよ?」
「だって。」
ふっと笑いながら「はいはい」、とに耳を傾けた。
『エルって名前つけたいんだけど、・・・・・ダメ?』
竜崎のビックリした顔。
そんなこと言われるとは。
しかしわざわざこうやって確認を取る彼女が愛しい。
「いいですよ。」
「いいの?ありがとうっ。」
「一番好きなもの、ですか?」
「・・・うん。ものじゃなくて、人だけどね。」
「なんかこそばいゆいですね。私を呼ばれているみたいです。」
「本物のLだもんね。」
「はい。」
同時にちょっと、妬けますけどね。
そう言ったとき、もう一人の『エル』はミルクをペロリとたいらげて幸せそうにしていた。
竜崎の小さな小さな、ライバル。
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猫が大好きだから猫の話題にしたら・・・やべ。
この猫しばらく出そうじゃんか。笑
ホント、計画性のない話だわコレ。笑