「流河君ってさ、どうしてちゃんのことずっと“さん”付けなの?」







ミサのそんな素朴な疑問。

丁度竜崎がプリンを食べ終わったときだった。
































































頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。

隣の○○君




























































「ねぇねぇ、さっきミサちゃんからメールあってね。」

「どうしたんですか?」

「『ミサのお家においでよ』って。」

「行くんですか?」

「あ、でね、ライトも流河君も来ない?だって。」

「え?僕も?」

「うん、ミサちゃんがライト呼ばないわけないじゃない。」

「そうですね。」













放課後。

特に用事のなかったライトは『別にいいよ。』と了承した。

竜崎も、が行ったうえにライトも行くんだったら自分が行かないわけにはいかない、そう思い行くことにした。

今日は仕事がオフだというミサは皆を招待して遊びたい、と6時間目の途中ににメールを送っていた。

ミサの家に行く前にふとがドラッグストアに行きたいと言い出したのでドラッグストアへ向かうことにした。

















「マツ●ヨのポイント結構溜まってるんだぁ。」

さんポイント溜めるの好きですよね。この前もミスタードーナッツのポイント溜めてましたし・・。」

「前はどこかのお菓子屋のポイントカード溜めてたよな。」

「・・そこのお菓子屋さん、つぶれちゃったからポイント溜めたのに無駄になっちゃったんだ・・・。」

「そ、そんな悲しそうな顔するなよ;」

「ポイント溜めるの好きなんだー。なんか得した感じしない?」

「なんか妙に所帯じみてますね。」














の集めているポイントはまだまだあったが、どれも結構食べ物屋の物が多いのは彼女のご愛嬌ということにしておこう。

マスカラが無くなっちゃったんだ、と言ってドラッグストアに入る。

その間、手持ち無沙汰なライトと竜崎も店内を少し見ていた。

ライトはともかく、竜崎はなんだか不審者のようにキョロキョロしていた。























「ラ、ライト君・・・!」

「え?なに、どうしたんだよ。」













店内を回っていると驚いたような声で竜崎がライトを呼び止めた。

何かと思い、竜崎の方へ寄ってみればライトは竜崎のその行動に眉間をひくつかせた。


















「・・・なに?」

「良かったじゃないですか・・・、はい、これ。」

「いらないよ。」

「何言ってるんですか。・・あぁ、じゃあ私がプレゼントしてあげますよ、この毛生え薬。

だから必要ないって言ってるだろう。

「照れなくて、・・いいですよ、大丈夫、です。誰も笑いません、から。」

「お前が笑いをこらえてるように見えるのは僕の気のせいか?」

「笑いませんよ、友達の非常事態にこんないい物を見つけてしまったんですよ。ほら、見てください。

『続けて実感!発毛効果!!脱毛症における発毛、育毛及び、抜け毛の進行予防!!!これで寂しい頭とはララバイ☆』・・・って書いてあります。」

「なに、最後の胡散臭い『☆』は。」

「良かったですね、是非試してみるべきですよ。」

「ねぇ、殴っていい?」

「暴力反対です。」

「言葉の暴力も反対だ。」












育毛剤コーナーで高校生がもめあっている光景はなんとも滑稽であった。

しかも竜崎がライトに育毛剤を薦めているところを見ると、なんだかライトが本当にそれが必要な人であるのかとも見えてしまい

ライトにとってマイナス要素ばかりである。









「最近の毛生え薬はすごいらしいですね。」

「実際どうだかは知らないけど、そうらしいね。」

「色々試してみた中ではどれが一番良かったですか?」

「だから試してないんだけど。」











二度と竜崎とはドラッグストアに来るまい、そう心に誓ったライトだった。

買い物をすませたが戻ってくるとライトは安心したような、そんなため息をついた。

がいれば竜崎も少しは大人しくなるからだ。

もっとも、も竜崎とライトのやり取りを楽しそうに見ている傾向があるのでまた漫才言い合いが始まっても

黙って面白そうに見ているだけであるが。















「そういえば、ミサの家知ってるのか?」

「うん、知ってるよー。前に一回だけ遊びに行ったの。」

「え、そうなんですか?」

「うん。可愛いお部屋だったよー。」

「考えてみればミサってモデルなんだよな。こう普通に会ったりしてるから忘れてるけど・・。」

「この前ミサちゃん載ってる雑誌見たけど、すごく可愛かったよー。ホント細いのね、羨ましい。」


















ミサを絶賛するの隣では竜崎がボソリと『さんのほうが可愛いですよ。』と言ったが、には聞こえてなかったようだ。

なんやかんやで20分ほど歩けばミサの家へと着いた。

インターホンを押せば、待ちわびていたのか嬉しそうにミサがひょこりと顔を出した。


























「いらっしゃいーv」

「ミサちゃん久しぶりー。」

「久しぶりだねぇ!ライトも流河君も久しぶりだね!ライト、会いたかったよーv」

「はは・・、仕事、忙しそうだね?」

「うん、でもお仕事忙しくてもミサ、毎日ライトのこと考えてるからね!」

「そ、それはありがとう・・。」









ゴシック調にされたミサの部屋。

ライトも竜崎も少し驚いたようなふうにしばし部屋の様子を見ていた。








「すごく個性的な部屋ですね。」

「可愛いよねー。」

「でしょでしょ?」

の部屋とはまた結構違うんだな。」

ちゃんの部屋もこういう風にすればいいのにぃ。」

「あはは、私こういうのセンスないからなぁ・・・。」

「じゃあ今度ミサが一緒にお買い物で選んであげるね。」

「ありがとう。」












どうぞー、とミサが用意した紅茶。

ミサももう慣れたのか、竜崎の目の前にいっぱいに入ったシュガーポットを置いた。

『ありがとうございます。』とそれをつまんではポチャンポチャンと入れている。











「後ねー、今日プリンを作りましたー☆」

「うわー、美味しそうだねぇ、見た目も可愛いし。」

「あは、こう見えて少しは作れるんだよー。」

「美味しそうですね。」

「流河君にそう言ってもらうと心なしか嬉しいのはなんだろうね。ね、ライトも食べてね??」

「あぁ、ありがとう。」












甘いものが大好きな竜崎も満足である。

『ミサさんもこういうの作れるんですね。』なんて言ってミサにポカポカ背中を叩かれていたが。












「流河君はいっつもちゃんに作ってもらってるしねー。」

さんはプリンは作ったことないですよね?」

「うん、私プリン作れない。」

「え、ケーキとかより簡単だよ?」

「ううん、あれだよ、あれ、この・・・ホラ、下の茶色いヤツ・・・」

「カラメルソース。」

「そう、それが作れなくて。」

「じゃあ今度ミサが教えてあげるー。」

「あ、本当に?ありがとー。」

「じゃあさんの作ったプリン、楽しみにしてますね。」









パクパク口にプリンを放りながら期待をこめてにそう言った。

するとミサがふと、いつも気になっていた疑問を竜崎に問いかけた。









「そういえばさぁ、」

「どうしたの?」

「流河君ってさ、どうしてちゃんのことずっと“さん”付けなの?」







そう言われれば、ずっと“さん”付けである。

付き合い始めてから結構経つが、未だに“さん”だ。

それがいけないわけではないのだが、ミサはずっと気になっていたらしい。









「どうして、って言われても困りますね。」

ちゃんも違和感とかないの??」

「え?ないよ?付き合う前からずっとそうだったから・・ね?」

「そうですね。」

「ライトみたいに呼び捨てにしてみないの??ライトはミサのことミサって呼んでるよ。」

「ミサがミサって呼べって言ったんじゃないか・・。」

「だってそのほうが恋人っぽんだもんーv」

「だ、そうですよ、さん。」

「ううーん・・・でも今更言われてもちょっと照れるなぁ・・・。」









確かにずっと“さん”と呼ばれていたのに急に呼び方を帰られると慣れないものだし、何よりちょっと照れる。

竜崎としても別にどちらでもよさそうだが。












「じゃあ一回だけちゃんのこと呼び捨てて呼んでみてよ。」

「なんでですか。」

「いいじゃんー、減るもんじゃないしぃ。」








ミサにそう言われ、チラリとを見やり、ふいに名前を呼んでみた。










。」











竜崎にそう言われた瞬間、の顔が赤くなる。

ただ呼び捨てにしただけなのに彼女のこの反応が面白いかった竜崎は少し口元が緩んだ。












「ちょ、い、いきなり呼ばれると、て、照れるね・・・!」

ちゃん初々しいなぁー。」

「でも流河が呼び捨てにしてると確かに少し違和感あるな。普段敬語で喋ってるからかもしれないけど。」

「あぁ、うん、そうだねー、流河君、敬語で喋ってて疲れないの??ミサだったら疲れるけど。」

「私はミサさんじゃないので平気です。」

「そうじゃなくてぇ。」

「癖です。」

「ふぅん・・?でも流河君の普通の喋り方見てみたいね、ね、ちゃん。」

「喋りませんよ。」










きっぱりと言い放ち食べ終わったお皿をスプーンで叩いて遊んでいた。(なんて行儀の悪い。)

そんな竜崎を隣に座っていたが『お行儀良くないからやめなよ』とやめさせている光景はなんだか彼女というよりも保護者だ。













ちゃんも流河君のことずっと流河君だよね。」

「え?あ、うん。」

「あれ、ていうか流河君の下の名前ってなんだっけ?」

「あれだろ、早樹だろ?」

「・・まぁ一応そうですね。」

「一応?」

「いえ、そうです。」

「(・・・偽名だしね・・・。)」

「呼ばないのー??下の名前で。」

「え、あ・・うん。」

「えー、呼んでみたら??ね、流河君も下の名前のほうが嬉しいよね!」

「いえ、別に。(本当の名前じゃないですし。)」

「えぇ〜〜、なんでぇ?」

「なんでもです。さんの好きなように呼んでもらえればいいですし。」

「そ、それに流河君って、あの、ホラ、なんとなく、早樹ってイメージなくて・・・」

「あー、確かに・・。」










別に本当の名前じゃない早樹という名前で呼んでもらえても、竜崎としては微妙なところだ。

第一、の言うとおり、自分でも自分が『早樹』なんて名前のイメージがないのは重々だ。

名前の話題は極力避けたい竜崎。

彼女にさえも自分の本名を教えていないのはなんとなく、やっぱり後ろめたいというか。

はそれでも構わないと言っているが、やはり好きな人には名前ぐらい知っていてほしいというのが竜崎の本音。














「ライト君の名前も変わってますよね。」

「ん?あぁ、そうだね。」

月と書いてヅライトと読むなんて、ライト君のご両親もなかなかひねった名前をつけてくれましたね。

「オイ。なにか余計なものをつけるな。お前のその頭をひねってやろうか?」

「嫌ですね、ライト君。暴力反対です。」

「お前が悪いんだろっ;」

「でもさ、ライトの名前って、なんか綺麗でいいじゃない。ね、ミサちゃん。」

「うんうんっ。ミサもずっと思ってたんだぁーv最初はライトじゃなくてナイトって呼びたかったんだけどねっ。」

「いや、頼むからそれは・・・。」


















それから数時間、ゲームをしたりとしていたが、竜崎がそろそろ帰らなければいけないということで

それに合わせて帰ることにした。(ライトはミサに引き止められていた。)


























「じゃあ、お邪魔しましたー。」

「お邪魔しました。プリン美味しかったです。」

「うん、また来てねー。」

「ありがとう、ミサちゃんも今度またうち遊びに来てね。」

「うん、じゃあまたね。気をつけて帰ってね??」

「私が家まで送っていくので大丈夫ですよ。」

「流河君が変なことしちゃダメだよ。」

「心外ですね・・・。」




















何気なく送っていくと言われ、嬉しさとともに『しませんよ』と否定しない竜崎には少し不安を覚えた。















「なにもしませんよ。」

「いや、分かってるけど・・。」

「本当分かりやすい反応してくれるんで面白いですよね。」










彼がの反応を面白がって嘘をついたりからかったりするのはいつものことなのに

相変わらずの彼女がおかしいと同時に愛しくて仕方がない竜崎。











さんは、」

「うん?」

「名前は呼び捨てのほうがいいですか?」

「え?」

「ライト君のように、呼び捨てで呼んだほうがいいですか?」

「いや・・・別に・・・。やっぱ気にしてたんだ?」

「ミサさんに言われて少し気になりました。」

「私も流河君の好きなように呼んでもらえるのが一番いいよ?」

「そうですか?」

「うん。それにさっき、ほら、一回“さん”付けじゃなく呼んだとき、すごい照れくさかったし・・・」

「今更、って感じですしね。」

「うん。」


















そんな話をしてれば、もうの家の前まで着いてしまった。

毎度ながらだが、竜崎は帰り際必ずにキスをしていく。

嬉しいけど、ご近所に見られてないかと気になるはいつもハラハラしていた。








「見せ付けてやればいいじゃないですか。」

「や、だ、だって・・・」

「分かってますよ。本当照れ屋ですね。」

「いや、だから流河君が照れなさすぎなんだって・・」










出来ればこのままも一緒に連れて帰ってしまいたい竜崎だったが、そうもいかないのが現実。

また明日彼女に会うまでここはグっと我慢。
















「じゃあ、気をつけて帰ってね。」

「はい。」

「少しは寝るんだよ?」

「・・・忘れなかったら。」

「コラコラ。」

「気をつけますよ。」

「うん、じゃあ、また明日ね。」

「はい、さようなら、。」

「!」










不意に呼びすてられた自分の名前。

してやったりな竜崎の表情がよく分かる。

もちろん、顔を紅く染めてるの反応を見て竜崎は満足そうに帰っていった。










*****

だけど竜崎の顔も少し紅く染まってた。