少し湿った、生温かい風が頬をかすった

あぁ、もうこんな時期か、なんて思いながら思うことは一つだった

























































頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。



隣の○○君















































「あっつーーー・・・」

「そうですね。」

「汗一つ流さずに『そうですね』って涼しげに言われても・・・」

「熱いですよ。」

「夏だもん・・・。」

「早いですね。」

「早いですよー・・・。」

さん、大丈夫ですか?」

「熱いのは、苦手でございますよーー・・・。」











7月初頭。

夏の始まり、と言ってもまだ蝉も数えるぐらいにしか鳴いていない。

だけどじわじわと蒸しあがるこの熱気、暑さはやはり夏には変わらない。

机にべたりと伏せ、暑さをじんわりと感じながらへばっているのは












「大丈夫じゃなさそうです。」

「うう・・・ダメだ・・暑さっていうのはなんでこうも人を堕落させるんだろうね・・・。」

「元気出してください。」







パタパタとの机にあったノートで彼女を仰ぐ竜崎。

そよそよと、心なしかの微風が顔に当たって少し気持ちがいい。











「あーー・・きもちいー。」

「それはよかったです。」

「んーー・・」

「ところでさん。」

「んーー・・。」

「帰りませんかね?」

「・・・・あ、もう帰る時間?」

「はい。さっきチャイム鳴りました。」

「ゴメンねぇ・・帰ろう。」

「はい。」








気だるそうにのそのそと椅子から立ち上がり帰り支度をした。

じゃあ帰ろう、と歩き出したものの、竜崎はなにかいつもとは違う違和感を感じずにはいられなかった。
















(・・・なんでしょう、なにか・・なにかいつもと違う感じが・・・)




(こう・・足りないというか・・・)




(いつも・・・・・・・、あ!)

















バッと自分の手を見た。

見たからといって竜崎の手がどうしたものかとそういううことではないのだが、

いつもの帰りと決定的に違うことが一つあった。













(手、つないでません・・!!!)















そう、いつもなら手を繋いで帰っているはずなのに今日は手を繋がずにいた。

そういえばさっき手を繋ごうとしてスっと手を取ろうとしたのに心なしか上手く交わされた気がする、

そんなことも思えなくもなくなってきた竜崎はわなわなとした。















「あの・・・さん・・」

「ん〜?どうしたの?」

「いや・・その、」














あぁ、どうしましょうか、なんか露骨に手を繋ぎたいとかいうのもおかしい気がします。

それにもしかしたら今日は嫌がってるのかもしれないですし・・・

・・・・いや、本当に嫌がってたら結構ショックなんですけどね、実際・・・


















「流河君?」

「あ、いえ・・・その、アイスが食べたいです。」

「あ!私も食べたい!」

「じゃ、じゃあ何処かお店に入りますか・・・。」

「うんっ。」




















そうじゃない、そうじゃないだろう私。

『なんで今日は手繋いでくれないんですか』と聞きたかったんです。

まぁさんがアイスで喜んでくれたのでいいんですけどね・・・。


















「流河君、どうする?何にする?」

「え?あぁ・・じゃあキャラメルバニラで・・・」

「あ、美味しそう。私ねー、どれにしよっかなぁ・・、あ、あれにしよう。」











席に座って頼んだアイスを口に含むとひんやりと冷気が広がり外の暑さがとんだ。

その涼しさに幸せそうな顔をしてるをじぃっと見ながらペロリとアイスを舐めた。













「どうしたの?流河君。あ、これ?これプリン味だよ。食べる?」

「食べます。・・あ、いえ、そうじゃなくて。」

「?」

「さっき手繋ごうとしたら避けられた気がしたんですけど。」

「え?あー、うん。」

「え!?やっぱり避けたんですか?」

「うん。」

「な、なんでですか・・」

「あ、暑いから・・・。」

「・・・大丈夫ですよ、ベトベトしてませんよ私・・・。」

「いや、私がね、気になるから・・うん。」

さんがベトベトしててもいいですよ、そのベトベトだって愛しいですよ。」

「なんか嫌だなぁ!それ!!」

「じゃああれじゃないですか、何も出来ないじゃないですか。抱きついたり。」

「え、それは暑くなくても道端でやらないでよ;」

「私夏が嫌いになりそうです。いえ、元々そんなに好きではないのですが、もっと嫌いになりそうです。」










暑くて手も繋げないんですから、とムスっとアイスを頬張った。

そんな竜崎に苦笑しながらもアイスを口に含んだ。

ひんやりと、カラっとした喉にアイスが通って心地よい。













「そんなブスっとしないで・・・。ほら、これ美味しいよ。」












はい、と竜崎の口へ自分のアイスを運んだ。

なんだかんだで美味しそうに食べている竜崎はこれだけ見れば本当に小さな子のようだ。















「あ、ねぇ、あのさ、この後本屋さん寄ってもいい?」

「いいですよ。」

「ありがと。」

「どういうの読んだりするんですか?」

「あ、今日は雑誌とかマンガとかじゃないの。」

「参考書ですか?」

「・・・そんなふうに見える?」

「いえ。」

「でしょ?」

「自分でそんな自信満々に言うものですか、それ。」

「あはは。でも参考書とかならライトに借りれるからさ。」

「・・・・・じゃあ今度から私が貸します。」

「え?あ、いや、でも持ってる?流河君そういうの必要なさそうだし・・。」

「買ってきます。」

「わざわざ!?」










ライトに借りる、というのが気に入らないらしいというのは分かるが

そこまで徹底しなくてもなぁ、と思いながらは残りのアイスを口に含んだ。



























「こんなところに本屋があったんですね。」

「うん。あ、じゃあちょっと買ってくるね。」

「はい。」













いそいそとが本を探しに行くと竜崎も手持ち無沙汰にブラブラとその辺の文庫本を手に取ったりしてみた。

奥のほうへ行くと、静かに本を手にとって読んでいる見慣れた姿が竜崎の目に映った。

こそこそ、とその人物に声をかけた。



















「ライト君、ライト君。偶然ですね。」

「・・・・・・うわ、・・流河、なに?なんでこんな所いるの?」

「私が本屋にいたら駄目ですかね。」

「いや、そうは言ってないだろ。」













文庫本を手にとってそれを静かに立ち読んでいたのはライトだった。

近所ということもあるのでライトが本屋にいるのは別におかしなことではない。

ライトは『厄介なやつに会ったなぁ』なんて顔をしている。














「なんですか?その本。推理小説ですか?」

「ん?あぁ。そうだよ、ちょっと気になったから」

それって中沢が犯人なんですよね。

「オイィィィ!!!!何バラしてんだよ!!ていうか知ってるんじゃん!!この本!!」

「ライト君、静かにしてください。本屋ですよ。」












シンと静かな本屋でのライトのツッコみは響いた。

ツッコみたい気持ちは分からなくもないが。

因みにライトはこの本を買って家でゆっくりと読もうとも思っていた。

一つ咳払いをすると、また声を潜めて竜崎に文句を言い始めた。












「お前さ、推理小説の犯人言うとかすごく反則だからね。」

「でもライト君ならもう分かってたでしょう。」

「まぁ中沢かなとは思ってたけど・・・って、そうじゃないだろ!」

「あぁ、じゃあこの本お薦めですよ。私好きなんですよ。犯人がマイケルかと思いきやボブだった、と思わせ実はケリーでした。してやられましたね。

僕がお前にしたやられたんだけど。なに?薦めてるのに犯人言っちゃうんだ?なにそれ。バカか!お前!!












またもライトのそのツッコみが店内に響いた。

あぁ、もう嫌だ、ライトはそんな落胆した表情で本をパサリと置いた。

ライトのその声に会計を済ませたが驚いた表情をしながら二人の方へ足を向けた。













「あれ、ライト?どうしたの・・・なんか大きな声で・・・」

・・。コイツなんとかしてくれないかな?会うたび嫌がらせしてくるんだけど。」

「心外ですね、嫌がらせだなんて・・・。親切に教えてあげたのに・・・」

あぁ、そうか、お前の親切は推理小説の犯人を一度ならず二度も言うことか。

「・・・二人とも、あの、とりあえず外出ようか・・?」









苦笑気味にそう言うを見やれば店内にいた客の視線がライトと竜崎に向けられていたのに気づいた。

バツの悪そうな表情のライトと別になんとも思ってなさそうな表情の竜崎と共に本屋を後にした。














「外暑いですね。」

「おい、さっきのことまるっきり忘れようとしてるよコイツ。」

「なんですか?」

「あぁ、もういいよ・・・。」

「今日はなにしたの、流河君・・・。」

「何もしてないです。」

「こいつ、僕が買おうとしてた推理小説の犯人言っちゃったんだよね。最低だよ。」

「ライト君、告げ口やめてくれませんか?」

「うるさいな、お前のせいで本買えなかったんだから!」












竜崎につっこむほど、外の暑さがじわりと身にしみた。

本屋で涼んで家でゆっくり本を読もうと思っていたライトの計画が台無しになった。












「うん、でも今日本当、暑いね。」

「そうだね。」

「そうですね、7月の初頭でもこんなに暑いんですね。」

「なんか、こう、じわりじわりと暑いの嫌だよね。」

「そうですね。・・・ライト君。」

「なに?」

「大丈夫なんですか?」

「なにが?」

ずっと頭に被っているので蒸れてないかと・・・。ねぇ?

心配ありがとう。生憎何も被ってないんでね。君が心配するようなことは何一つとしてないよ。












夏に相応しい、そんな爽やかな笑顔でそう言うライトだが、額に一つ、青筋が立っていた。

竜崎のおちょくるような、いや、実際おちょくっているのだろうが、その言葉にいちいち激しくつっこんでいれば

きっとこの夏乗り越えられないだろう、血管が暑さでなにかでプツリとイってしまうかもしれない

ライトは少し、そう思った。














「熱中症とかあるからねぇ、気をつけなきゃね。」

「そうですね。帽子を被ったりしていると多少は防げますが適度に帽子を外して空気を入れ込まないと

熱中症になりますから、・・・・この時期は大変ですね、ライト君。」

「何が言いたいの?ねぇ。」

「あ、今から家来てアイス食べる?」

「食べます。」

「ライトも来るでしょ?」

「え?あぁ、じゃあお邪魔しようかな。」

「いいですよ・・・来なくても・・・」

「お前はいちいち・・・・。」




















7月初頭。

二度目のアイスを食べた。








*****

オチが・・・・。
浮かばなかったっていうのは内緒。そっくしょん!

夏になりました、って話。