「お邪魔しま・・・うわ!なにこれ!汚い!」
「・・・・来てからの第一声がそれですか。」
頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。
隣の○○君
夏休み初日、午後の昼下がり。
竜崎の所へと遊びに来たは(竜崎から『来てください』とメールがあった)部屋に上がるなりのこの第一声。
床にはお菓子のゴミがいくつか捨てられ、何かを探していたのかデスク周りもゴチャゴチャしていて
とてもじゃないが綺麗とは言えない状況の部屋を見て思わず本音をこぼしてしまったのだろう。
いつもならお菓子のゴミもちゃんと捨てられているし、デスク周りも綺麗にされている。
「どうしたの、これ。汚いよ。」
「そんな汚い汚い言わないでくださいよ・・・。」
「あ、ゴメン・・・でもどうしたの、ワタリさんは?綺麗好きのワタリさんが放っておくわけないのに・・」
「ワタリは外出中です。」
「・・・あぁ、なるほど。」
「納得しないでください・・私だって片付けようと思えば片付けられます。ただ時間がありませんでした。」
「・・・うん、そうだね。」
「あ!信用してませんね?」
「いいよ、私片付けておくから。」
「・・・・・。」
ヒョイヒョイ、とゴミを手に取り捨てていく。
デスク周りは大事な物もあるかもしれないので竜崎に一言声をかけた。
「デスク周り、片付けて平気?」
「はい、大丈夫ですよ。」
散らばった資料を丁寧に綺麗に片付けている。
やはり少し気になるのか、資料に目をやってみるだが内容は難しくわからない。
が、一つ気になるものを発見した。
「わぁ、なにこれ。」
「なにかありましたか?」
「すごいね、これ。」
ジャラっと音を立てての手中にあるものは、手錠だった。
しかも、鎖の部分がとても長い。
「1メートルくらいある?」
「そうですね。」
「こんなの何に使うの?」
「・・まぁ・・犯人を確保したときとか・・」
「使ったことある??」
「ないですね。」
「だろうね。」
「使ってみますか?」
「え?いや、いいよ。」
「いいじゃないですか、せっかく見つけてくれたんですから。」
「・・・流河君が使ってみたいだけだよね?」
「バレましたか。」
「・・・・。」
呆れたような、そんな表情のをよそに、手に持っている手錠をジャラリと音を鳴らしながら
の手首へと一つの輪をかけている。
そしてもう一つは自分の手首へ。
はそんな竜崎の行動を見て驚き思わずペシっと竜崎の手を軽く叩いた。
「ちょ!!わーー!!なにやってんのー!?」
「何って・・・見ての通りですが。」
「何当たり前のように・・・。これちゃんと外れるよね??」
「大丈夫ですよ。鍵ありますから。」
「なら良かった・・。」
ゴソゴソと鍵が閉まってあるであろう棚の引き出しを開ける竜崎だが、開けて少し沈黙した後
いつもの飄々とした表情ではなく、少し曇った表情になっていた。
何事もなかったかのようにの方を振り返り、言った。
「あぁ、そういえばさん。ケーキ食べますか?」
「え?あ、うん。」
「じゃあ食べましょう。美味しいのがあるんです。」
「手錠外してからにしようよ。食べづらいし、ね?」
「・・大丈夫ですよ、食べれます。後ででいいです。」
「でも」
「チョコのケーキなんですが、そのチョコが特別で」
「ねぇ流河君。」
「はい、なんですか。」
「もしかしてさ、・・・・鍵なかったの?」
「・・・・いえ、見つからなかっただけです。」
「なかったんだ!!!!;」
フイ、っとから目を逸らしそう言った竜崎には相当焦っていた。
「ど、どうするの・・・トイレとか・・・。」
「まずその心配ですか。」
「だ、だってトイレ行きたくなったらどうするの!」
「ついていきますよ?」
「そ、それが困るんだってばー!;」
「別に私は気にしませんけど・・・。」
「私は気にします。」
「でも私はこれはこれで美味しい結果になったんで」
「うぉぉい、何言ってんの!;」
「だってさんとこうやってずっと一緒にいれるんです。嬉しいです。」
「・・・・。」
「呆れましたか?」
「呆れたっていうか・・・うん、そうかも。」
苦笑気味にそう言ってみせるに対して、竜崎は満足そうな表情でいた。
互いが動くたびに、手錠がジャラリと音を立てて揺れた。
普通の手錠よりも鎖が長いと言っても、繋がれていればやはり互いの行動範囲は限られてしまうわけで
何をするにも一緒の状態である。
竜崎としてはとても嬉しい状況にあるのだが、にしてみればあまり良くはない状況らしい。
まず彼女が一番心配しているのはトイレのことらしい。
「あ、」
「なぁに?」
「じゃあお風呂も一緒ですね。」
「・・・君はお風呂の時間までこの状態でいるつもりなのかい?」
パっと嬉しそうな表情でそう言った。
待て待て待て、そうジェスチャーをしながらは言葉を返した。
「え?違うんですか?」
「いやいやいや、探そう、探そうよ、鍵!」
「ええ・・さんそんなに外したいんですか?」
「外したいよ。」
「嫌ですか?」
「嫌っていうか・・・嫌じゃないけど、やっぱ鍵ない状態でこれは焦るからさぁ・・・。」
「外れるっていう確かなものがあれば嫌じゃないんですね?」
「え?まぁ・・うーん・・・そう、なのかなぁ。」
「じゃあワタリが帰ってきたら切ってもらいましょう。」
「(そういう意味じゃないんだけどなぁ・・。)」)
の気を知ってか知らずか、竜崎は相変わらずのマイペースだ。
ヒョイっとソファの上に座り、紅茶をズズっと啜った。
そんな彼を見て諦めたのか、はちょこんと竜崎の隣に座った。
「でも、うん、・・悪くないよね。」
「なにがですか?」
「こうやって、近くで一緒にいるの。」
「でしょう?」
「うん。」
「あぁ、もう可愛いですね、さん・・・」
「なに?どうしたの、いきなり・・・。」
「そんなふうに言われたら抱きしめてしまいたくなります。」
「・・・・。」
「どうしたんですか?」
「いや、前から思ってたんだけど、流河君って結構スキンシップ好きだなぁって。」
「さんにだけですよ。別に他の人にはなんとも思いませんし。」
だから安心してください、そう言いながらぎゅっと抱きついた。
ジャラジャラとまとわり突いてくる手錠の音を鬱陶し気に払おうとする竜崎を見て
『だったら最初からつけなければ良かったのに。』はそう思った。
しばらくに抱きついた形でいたが、気がすんだのかまたいつものように座りなおし、
紅茶を啜った。
その後、ハッと気づいたかのようにその飲みかけのカップをにハイ、と渡した。
てっきり片付けて欲しいのかと思ったは立ち上がりカップを持っていこうとした。
「何処行くんですか。」
「え?片付けて欲しいんじゃないの?」
「違いますよ。さんにわざわざそんなことさせません。」
「じゃあどうしたの?」
「この状態だとお茶を淹れるのも大変だと思うので、代わりに私のを飲んでいただこうかと思って。」
「あ、くれたの??」
「そうです。」
「ありがと。」
気をきかせてくれたんだろう、彼のそんな気持ちが嬉しくなったはまたソファに腰をかけ、
竜崎からもらった飲みかけの紅茶に口をつけた。
が、口に含んだ瞬間すごい勢いでむせていた。
「ぶほっ、ゲホッゴホッぶはっ!!」
「ど、どうしたんですか?すごいむせ方ですね。」
「甘!!!」
「それでむせたんですか?」
「これ砂糖何個入れたの?」
「分かりません。」
「・・・分からないぐらい入れたんだ・・・。」
「甘いのは脳にいいんですよ。」
「ね、新しく淹れてもいい?」
「いいですよ。」
立ち上がるの後に続いて竜崎も立ち上がる。
この手錠のおかげで行動を常に共にしなくてはならない。
竜崎の分と自分の分、コポコポと音を立てながらカップに注いでいった。
隣でその様を見ている竜崎は目をパチパチさせながら言った。
「なんだか前よりも淹れ方が上手になった気がします。」
「ワタリさんに教わったの。って言っても見てただけだけどね。」
「さんが淹れてくれるのならなんでもいいんですけどね、私。」
「でも美味しいほうがいいでしょ。」
「まぁ。」
「だからちょっとずつワタリさんみたいに美味しいお茶淹れられるようにがんばるよ。」
「楽しみにしてます。」
嬉しそうに、そのままがお茶を淹れる姿を眺めていた。
それを見ながら、ポツリと竜崎が一言漏らした。
「なんかずっとこのままでもいい気がしてきました・・。」
ポツリとつぶやいたその独り言に、は思わずティーポットを落としそうになる。
頭のネジでも外れてしまったのか、そんな顔つきで竜崎を見つめた。
「なんですか。」
「いやいやいや、ずっとこのままじゃ困るよ!!;」
「なんでですか?」
「いや・・・だってトイレだって困るし、常に一緒に行動しなきゃいけない・・・トイレだってアレだし・・・流河君もお仕事できなくなっちゃうし・・・
トイレだって・・・・ねぇ?」
「貴女の心配事はトイレのことばかりですか。」
「だって困るでしょう?」
「私は気になりませんよ?」
「・・・・とにかく!ダメ!絶対鍵見つけなきゃ!もしくは本当にワタリさんにちょんぎってもらう!」
「そうですねぇ・・・。」
残念そうに、仕方なく同意し、そのままテーブルの上に置いてあったシュガーポットに入っている砂糖を一欠片、口に放った。
砂糖を口にする竜崎を見てはシュガーポットをパっと取り上げ『なんでお菓子があるのにお砂糖食べちゃうの!』と注意した。
の言ってる通り、竜崎の仕事をしているテーブルには美味しそうなお菓子が並べてある。
にも関わらずどうして砂糖を口にするのか。
口に放った砂糖をガリガリかじりながらその話を聞いていた。
「だってそこに砂糖が置いてあったんで食べちゃいました。」
「そこに山があるからみたいな言い訳しないでよ。ダメだよ、ただでさえ不健康な生活送ってるのに・・・。」
「何気なく失礼なこと言いましたね。」
「だって本当でしょう?」
「分かりましたよ、お菓子食べますよ。」
「(本当はゴハンを食べて欲しいんだけど・・・)」
お菓子が置いてあるテーブルに目をやり、そっちへとスタスタと歩こうとする竜崎。
手錠をかけているのを忘れていたのか、が引っ張られてしまうということに気づいていない。
竜崎が歩き、ジャラリという音と共にはバランスを崩し倒れそうになっていた。
「わっ、わっ、」
「あ、す、すいません、そうでした・・手錠をかけてたんでした。」
「うわ!」
ハッと気がつき、を心配しクルリと彼女の方へ振り返ったが、その反動でさらにバランスを崩したは
竜崎倒れこむような形になってしまった。
「さん・・・すいません、大丈夫ですか?」
「わ、私は全然・・・びっくりしたけど・・・っていうか、ゴメンね、重いよね!?」
竜崎の乗っかるような形のは慌ててその場をどこうとしたが、竜崎は面白がって
からかうように言った。
「なんか、さんに押し倒されてるみたいです・・・。」
「!!」
「嘘ですよ・・・そんなに顔真っ赤にさせて・・本当、可愛いですよね。」
「・・・・流河君って本当人をからかうの好きだよね。」
「さんの反応が可愛いからつい。さんにだけです。」
「(ライトのこともしょっちゅうヅラってからかってるけど・・・)」
「因みにライト君のことは本気で言ってますから。」
「え、なに、エスパー?エスパー??しかも本気って!!」
「なんとなくです。そんなこと思ってるんじゃないかと思いまして。」
「すごいなぁ・・・。」
そんなことをそんな状態で話している最中だった。
ガチャリ、ドアの開く音がした。
ハッとしてドアの方を見た二人。
「・・・おや・・、お取り込み中でしたか?」
外出していたワタリが帰ってきた。
ワタリを見ては慌てた。
「ちっ・・ちが、違うんです・・!!あの、これはちょっとハプニングが!!」
「そうでしたか、それは良かった。竜崎がまたなにか悪さをしたのかと・・・」
「ちょっ・・ワタリ、何を言ってるんですか・・・またっていつも何かしてるみたいじゃないですか。」
「ほっほっ、冗談ですよ。・・・おや・・。」
「どうしたんですか?ワタリさん。」
ふと、手錠をかけている竜崎とに気づいたワタリは不思議そうな顔で竜崎を見た。
「竜崎、その手錠・・・」
「え?・・・あぁ、ちょっとした戯れです。」
「いえ、そうではなく・・・それ、どうやって外すおつもりで?」
「・・・え?」
「鍵はございましたか?」
「・・・・・・・何処かにありますよ。」
「またそういうこと言って、流河君!;そんなアバウトな!」
「竜崎、その手錠の鍵は私が預かっているんですが・・・」
「「え!?」」
キーケースのような物を取り出し、いくつかある鍵のうちから手錠の鍵であろうものを取り、
これです、と見せた。
これには竜崎もしばし驚いていた。
「なんでワタリが・・・」
「竜崎がその辺に置いておくからですよ。」
「・・・・・。」
「さん、なにやら竜崎がだいぶご迷惑をおかけしてしまったみたいで申し訳ありません。」
「い、いえ、そんな、ワタリさんが謝ることじゃないですよ!」
「後で竜崎にもよく言っておきますので・・」
「やめてくださいよワタリ・・・そんな子どもみたいな・・」
「おや、子どもみたいに片付けない方はどなたでしょうか?」
「・・・・・。」
鍵をに手渡し、『では、私は失礼します。』そう言ってワタリは部屋を後にした。
手渡された鍵で手錠を外し、は竜崎に言った。
「よかったね、手錠、外れて。」
「・・・まぁ・・・少し残念ですが・・・。」
「またそういうこと言って・・・」
「だってまだお風呂入ってないですし・・・。」
「そんなことよりも、ちゃんと片付けないからこういうことになっちゃうんだよ。」
「(さりげなくシカトしましたね・・・。)・・・・・気をつけます。」
「・・・せめてお菓子のゴミとかはちゃんと片付けられるようになったら、お風呂、一緒でもいいよ。」
「頑張ります!」
「(そんな意気込んで・・・)」
「今の、約束ですよ?」
「え?あ、・・・うん。」
「なんですか・・・今の間は・・・。駄目ですよ、約束しましたからね。」
「わ、分かったよ・・。」
外れた手錠をジャラジャラ音を立てながらしまう竜崎は
『今度また使ってみましょう』そんなことを思いながら片付けた。
そしてお菓子のゴミを拾い上げ、ゴミ箱へと放った。
ひぐらしが外で鳴いている。
夏休み初日の夕暮れ。
*****
手錠ネタやりたかっただけ。