「さん、なにやら今日はいつもより町内が忙しそうですね。」
「あぁ、だって明日お祭なんだよ。」
「お祭、ですか。」
頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。
隣の○○君
が遊びに来るというので今日はどうしても、と竜崎が車で迎えに来た。
いつもはが気を使って迎えはいい、と言うのだけれど。
車の外では町内の人たちが色々と屋台を出したりと、いつもにはない光景を見た。
「明日、町内のお祭なんだよ、花火大会だから。」
「そうなんですか。」
「・・・・・・ね、」
「はい。」
「・・・・・あの、明日暇じゃない?」
「言うと思いました。」
「・・・・・。」
「何処か行きたい所に連れて行くと約束したじゃないですか。いくらでも時間は空けます。」
「え、覚えててくれたの?」
「当たり前じゃないですか、私を誰だと思ってるんですか。私ほどさんを思ってる人間なんていませんよ。」
「あ、ありがとう。」
竜崎が約束を覚えていてくれたこと、本当は忙しいのにいくらでも時間を空けてくれると言ってくれたことは
とても嬉しいのだが、はどうにも竜崎が真顔できっぱりと恥ずかしげもなく恥ずかしいセリフを言ってのけることに
未だに慣れていない。しかも、真顔で、だ。
「どうしたんですか、さん。」
「い、いや、なんでもないよ。」
「そうですか。それにしても、私、お祭なんて行くの初めてですね。」
「行ったことなかった?」
「はい。」
「そっか。楽しいよ!出店もいっぱい出るし。あ、流河君が好きそうなのも売ってるよ。」
「本当ですか、それは楽しみです。」
「花火は?見たことある?」
「テレビで見たことがあります。」
「じゃあ生花火も初めてだ!」
「はい。」
「楽しみだね!」
自分が初めてお祭に行くような、そんな様子で楽しそうに話すものだから、
竜崎は思わず頬が緩んだ。
のこういう所が好きだ、そう思った。
早くお祭行きたいね、車の外を見ながらがそう言ったことに竜崎もにこりと笑った。
「ワタリさん、ワタリさん、あの・・・。」
「どうしたんですか?さん・・珍しいですね。」
竜崎がパソコンと資料と睨めっこしている間、はコッソリとワタリの所へと来た。
がこうして一人でワタリの所へ来ることは珍しいのでワタリも首をかしげた。
「すみません、忙しいのに・・・」
「いいえ、大丈夫ですよ。気になさらないでください。」
「あ、ありがとうございます。」
「どうしたんですか?竜崎がなにかしましたか?」
「いや、そんなとんでもない!お仕事頑張ってます。」
「そうですか。あぁ、そんな所に立っていないで、どうぞ、座ってください。」
そう言って椅子をすっと出した。
ワタリのこういったさりげない気遣いにいつも感心する。
素敵な人だなぁ、はいつもそう思っていた。
「あの、突然で申し訳ないんですけど・・・・」
「いいですよ、なんでもおっしゃってください。」
「さん、何処に行ってたんですか。寂しかったです。」
「ゴメンね、ちょっとね。」
「なんですか。」
「そ、外に・・。」
「外に、ですか。すみません、かまってあげられなくて・・・」
「えええ、ううん、違うの!違うの!そんなこと全然気にしなくていいんだよ!?」
用事を済ませたらしくワタリの所から戻ってきたを見て竜崎は安著の表情を浮かべた。
突然いなくなってたものだから慌てていたらしい。
「びっくりしました。気がついたらさんがいなかったんです。」
「ゴメンね、仕事集中してたから声かけないほうがいいと思って・・・。」
「そうでしたか・・・。すみません・・、気づかなくて・・。」
「き、気にしないでよ、今度から私もちゃんと声かけるようにするね。」
「はい・・。」
「あ、ねぇ、お菓子、お菓子食べよう?さっき買ってきたヤツ。」
「はい、食べます。」
買ってきたお菓子を広げ竜崎にハイ、と渡した。
嬉しそうにそれを受け取ると、また嬉しそうにそれを口に含んだ。
はワタリの所から帰ってきてから、少しご機嫌な様子だった。
ワタリの所へ行っていたなんて知らない竜崎は『なにかいいことありましたか?』そう聞いたが
返って来た答えは『早くお祭行きたいなぁ、って。』それだけだった。
「本当に送っていかなくていいんですか?」
「大丈夫だよ・・・そんな心配しなくても。小さな子どもじゃないんだから・・。」
「だって変なヤツに襲われそうになったらどうするんですか!あぁ・・・そんなこと考えただけでも恐ろしいです・・・。」
「心配性すぎだよ・・・。」
「やっぱり送って」
「でも、忙しいんでしょ?」
「それとこれとは、別です。」
「ありがとう、流河君。」
「・・・気をつけて帰ってください、何かあったらすぐに連絡してください、車には気をつけてください、あと変なヤツに声をかけられたら
まず急所を狙って蹴るんですよ、そしてすぐに連絡してください、あと」
「う、うん、分かった、気をつけるよ、ありがとう。」
毎回同じようなことを言って見送る竜崎。
心配しすぎである。
「あぁ、そうだ、明日は何時ですか?」
「えっとね、お祭が始まるのが5時くらいからだったと思うから・・・そのぐらいに私流河君の所に来るよ。」
「迎えに行きますよ?」
「ううん、いいの。来たいの。」
「そんな可愛らしいこと言わないでください。帰したくなくなりますよ。」
「いやいやいや・・・。じゃあ、明日ね。」
「(軽くスルーしましたね。)はい。」
竜崎と別れを告げ、帰路をを辿った。
祭りの準備がしてある町並みを見て、少し嬉しくなった。
竜崎と明日、お祭に行けること。
にとってはそれがすごく嬉しいものだった。
竜崎があまり外出が好きではないことも知っている、だから祭りのような人で溢れているような場所に
一緒に行ってくれるとはあまり思っていなかった。
なにより約束を覚えてくれていたことが嬉しかった。
(明日楽しみだなぁ。ワタリさんにもお願いしたし、・・・うん、楽しみ。)
翌日、夕方頃になると祭に行くであろう人で溢れていた。
もまたその一人だ。
竜崎の所へ向かっている途中だった。
「さん遅いですね・・・。」
「5時ぐらいに来ると言っていたんでしょう?まだ5分過ぎたばかりですよ、竜崎。」
「そうですけど・・。」
が来るのをまだかまだかと待っている竜崎。
椅子をクルクル回したりと落ち着かない様子だった。
が来るという時間が近づくといつもこうらしい。
ワタリにお茶を入れてもらいながら待っていると、ドアをコンコン、とノックする音と共に
竜崎の待ち人の声がドアの開く音と共に聞こえた。
「流河君、ゴメンね、もう少し早く来ようと思ったんだけど・・・・」
ドアを開けて入ってきたを見て竜崎は大きな目をさらに大きくし彼女に見入っていた。
その横でワタリがニコニコと笑っている。
「、さん、それ・・・」
「お祭だから、浴衣着てきたの。そしたら歩きにくくてさぁ、予定より着くの遅くなっちゃったよ。」
淡いピンク色の、可愛らしい浴衣を身にまとってきた彼女を見て驚いていた。
いつもとだいぶ雰囲気が違う彼女の姿が印象的だったらしい。
「・・・・。」
「えーと、あの、・・・・変だった?」
「・・・・いえ、・・・・・・すごく可愛いです・・・・。」
穴が空くんじゃないかというぐらいジィっと彼女を見やっていた。
流石にそんなに見入られていると恥ずかしいは口を開いて竜崎にそう聞いたが、
竜崎にはだいぶお気に召したようだった。
「すごく可愛いですね・・・、似合ってます。」
「あ、ありがとう。なんかずっと黙ってるからどうしたのかと思ったよ・・・。」
「いえ・・・なんだかいつもと雰囲気も違ったので少しびっくりしました。後可愛すぎです。」
「そんなに煽てても何も出ないよ。」
「煽ててませんよ。本当ですよ、すごく可愛いです。・・・あぁ、髪の毛を結っているから少し雰囲気が違うんですね。」
の浴衣姿にご満悦の竜崎はまだ祭りにも行っていないのにそれで満足そうにしていた。
そんな竜崎をよそに、は側にいたワタリに嬉しそうに声をかけた。
「あの、ワタリさん。」
「大丈夫ですよ、用意してあります。」
「わー!有難うございます!」
「ちょっと・・・なに二人で秘密の会話してるんですか・・・私にも教えてくださいよ。」
とワタリが二人にしか分からない会話をしていたのが気に入らない竜崎は口を尖らせながら
二人の間に割り込んだ。
『心配しなくても、あなたのことですから大丈夫ですよ。』そう言ってその場を離れた。
「なんですか?ワタリとなにか約束したんですか?」
「うん、ちょっと。」
「!!ずるいですよ、私に内緒で・・・。」
「だって内緒じゃなきゃつまらないし・・・。」
「教えてくださいよ。」
「も、もうすぐワタリさん来るから、ちょっと待ってよ・・・。」
グイっと顔を近づけてに抗議していると、の言ったとおりすぐにワタリが戻ってきた。
何かを抱えて。
「さん、これでよろしかったですか?」
「わー!はい!有難うございます、ワタリさん!」
「ワタリ、それなんですか?」
「ほほ、さんに頼まれまして。竜崎の浴衣です。」
「・・・・・え?私のですか?」
不思議そうな顔でワタリの持っている浴衣を見つめた。
その横でがニコリと笑いながら竜崎に言った。
「流河君に、浴衣着て欲しくてワタリさんに流河君の浴衣がないか聞いたの。そしたら用意してくれたの。」
「私も着るんですか?」
「だめ?」
「さんの頼みならなんでもしますよ私。」
ワタリから浴衣を受け取り、着替えようとした。
おもむろにズボンを脱ごうとする竜崎には頼むから隣の部屋で着替えてくれ、と言った。
「ワタリも来て下さい。着かたが分かりません。」
「分かりました。さん、少し待っていてください。」
「あ、はい。大丈夫です。」
浴衣を着たことがなかった竜崎はワタリに手伝ってもらうよう言い隣の部屋へと移動した。
隣の部屋からはワタリが竜崎に『すいません、竜崎、もう少しじっとしてください』と促す声が聞こえたりしてきた。
着替え終わって戻ってきた竜崎は慣れない服に違和感を感じているのか口を尖らせながら出てきた。
「なんかこれ、スースーしますね。」
「うわー!似合うね、浴衣!」
「そうですか?」
「うん!可愛い!」
「・・・・可愛いって・・・さん・・・。」
薄く淡い水色の生地の浴衣に身をまとってきた竜崎を見ても喜んだ。
普段制服姿か、白いTシャツにジーンズ姿が主な彼のこんな姿を見れるのはとても新鮮だった。
何より、が思っていたとおり似合っていたらしくご満悦だった。
「これを着て皆お祭に行くんですか?」
「皆じゃないと思うけど、お祭って言ったら浴衣だよ。」
「そうなんですか。初めて着たのでなんだか変な感じです。」
「似合ってるから大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。じゃあ、そろそろ行きますか。」
「うん。」
行ってきます、ワタリにそう告げて部屋を出た。
いつもスニーカーの竜崎は下駄を履いて少し歩きにくそうにしていた。
「ちゃんと手繋いでてくださいね。」
「え?」
「たくさん人がいるんでしょう?」
「うん。」
「さんが何処か行ってしまったら嫌ですよ。」
「あはは、ありがとう。」
「笑い事じゃないですよ、さんなら有り得ますから。」
「・・なにそれ。」
面白がりながらにそう言った。
すごい人だかりに驚く竜崎だったが、色々な出店が出ているのを見て目をパチクリさせた。
その中でも最初に目についたのパステルカラーの淡い色でフワフワしていた物を指差した。
「さん、あれなんですか?」
「あれ、わたあめだよ。」
「わたあめ?」
「うん。食べたことない?」
「ないです。なんですか?」
「甘いの。」
「食べたいです。」
「言うと思った。行こ?」
「はい。」
見たことのない食べ物を手にして不思議そうにそれを口に含んだ竜崎は
美味しそうにそれをパクパク食べ始めた。
「美味しいです。」
「流河君、好きそうだもんね。」
「すごく甘いですね。」
「だってそれ砂糖で出来てるんだもん。」
「砂糖だけでこんなものが出来るんですね。」
「あ、私あれ食べたい。ちょっと待ってて、買ってくる!」
「あ!ちょ、さん、一人で・・・」
「大丈夫だよ、すぐ戻ってくるよ。」
竜崎の手をパッと離し、目的の屋台へと一人で向かうを見て一人慌てている竜崎。
傍から見れば挙動不審のようだ。
心配そうにの後姿を追いかけようとするが人込みが邪魔して上手く歩けなかった。
そうこうしているうちに両手にいくつか食べ物を抱えたが戻ってきた。
「ただいま。」
「は、早かったですね。」
「うん。」
「・・・何を買ってきたんですか、そんなに・・・。」
の両手にはこの短時間でそんなに、という食べ物が抱えられていた。
「たこ焼きと、お好み焼きと、焼きソバと、あとチョコバナナと林檎飴。チョコバナナと林檎飴、流河君も食べるでしょ?」
「はい、・・それ、さんが食べるんですか?」
「そうだよ?」
「相変わらずいっぱい食べますね。」
「いやぁ、流河君もだよ。」
そういえば彼女はこう見えて大食らいだった、竜崎は改めて思った。
食べ終わってしまったわたあめの棒を捨て、今度はにチョコバナナをもらい嬉しそうにそれを食べた。
「流河君も食べる?たこ焼きとか。」
「私はいいです。」
「おいひいよ。」
「飲み込んでから喋りましょう、さん。」
「流河君に言われたくないなぁ・・・。」
石段に腰をかけ買ってきた物を食べ始めると、その横で竜崎はそれを眺めて嬉しそうにした。
「どうしたの?」
「美味しそうに食べますね。」
「美味しいよ。」
食べながら人の溢れた沿道を眺めながら話していた。
ふと、が話を変えた。
「あのね。」
「はい。」
「この前夢見たんだ。」
「どんな夢ですか?」
「なんか、流河君に別れましょうって言われた夢。」
「馬鹿な夢を見ましたね。」
竜崎が呆れたような、でも愛しそうな、そんな目でを見た。
「そう言ってくれて良かったよ。正夢になったらどうしようって思ってさ。」
「なるわけないじゃないですか。私がそんなこと言うわけがありませんよ。」
「ありがとう。」
「なんでそんな夢見たんですかね。」
「なんでだろうね。でもね、夢だけど、すごく悲しかったし、すごく嫌だったんだ。」
「そうですか。多分、私もそんな夢を見たら最悪な気持ちになりますね。」
「好きなんだなぁ、って、実感したの。」
焼きそばを食べながらそう言った。
すごく嬉しいことを言ってくれているし、とても可愛らしいと思う言葉なのに、
焼きそばのせいで全くムードもなにも感じられなかった。
「もうたこ焼き食べ終わったんですか。」
「うん。」
「その体の何処にそんなにたくさん入るんですか。」
「その言葉を普段の流河君にそっくりそのまま返すよ。」
「そうですね。」
竜崎も、チョコバナナを食べ終わり林檎飴を食べようとしていた。
口に含んだ瞬間、空の上で何か大きなものがはじけるような、大きな音が鳴り響いた。
「あ、花火。」
「生で見たの初めてです。」
「綺麗だね。」
「でも五月蝿いですね。」
「それ言っちゃぁ・・。」
「すごいですね、大きいです。」
「ね。」
3度目の音が鳴り響いたとき、は焼きそばを食べ終わりお好み焼きを食べていた。
花火の音にかき消されないように、竜崎は少し声を大きめにして喋った。
「ねぇ、さん。」
「なぁに?」
も先程よりも大きめの声を出した。
「ありがとうございます。」
「えー?なにが?」
「お祭、連れてきてくれて。」
「だって、一緒に行きたかったんだもん。私こそありがとうね、付き合ってくれて。忙しいのにさ。」
「また来たいです。さんとなら。」
「じゃあ、来年も来よう?」
「えぇ。」
嬉しそうに、互いを見合ってそう言った。
竜崎の林檎飴も、のお好み焼きももう手元には残っていなかった。
にこりと笑ったの顔を見て、竜崎がまた口を開いた。
「キスしてもいいですか?」
「え?いや、駄目。」
「な、なんでですか・・・」
「焼きそばくさいから。」
「・・・・・・。」
来年はもうあんまり食べないでください、竜崎は心に思った。
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どうしてもお祭の話は書きたかったんだす。