『何処か、行きたいところはありませんか?二人で出かけませんか?』
冬休みが始まって間もなく、流河君からそんなことを言われた。
頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。
隣の○○君
彼の突然の誘いには少し驚いた。
いつものように竜崎が仕事をしている間、はエルを構いながら彼が一区切りつくのを待っていた。
ソファに腰掛けて仕事をしていた竜崎がふとに目線をやり、そして言った。
それが冒頭の言葉だった。
竜崎は外出はあまり好きではない。
それ以前に学校へ行く間意外に外出をしている暇などほとんどない。
もそれは承知だ。
承知の上であるし、彼女はそのことに不満も感じていなかった。
竜崎自身は前々からと一緒に何処かに出かけてやれないことに不満、というか後ろめたさのようなものを感じていたが。
「どうしたの?急に・・・。」
「いえ、冬休みですし。」
「冬休みだからって・・・夏休みだって一緒にお祭行ってくれたし・・」
「夏休みは夏休みです。冬休みは冬休みです。」
「お仕事、大丈夫なの?」
「そんなこと気にしなくて大丈夫ですよ。」
「だって、流河君無理して終わらせるときあるでしょ。何日も寝なかったり。」
「大丈夫です。」
は竜崎が何日も寝ずに、ろくな食事も取らずに仕事に没頭することを嫌がった。
彼の健康状態を考えてのことなんだろうが、竜崎はいくら言っても大丈夫だと言い張るので結局いつもが折れることになる。
だけど、彼が『どこかへ行こう』と言ってくれることはすごく嬉しかった。
学校帰りに二人でケーキを食べたりするだけでも至福に感じるが、学校のない日に竜崎とどこかへ出かけられることは
滅多にないのでやはり嬉しかった。
「何処へ行きたいですか?」
「んー・・・唐突に何処へ行きたいって聞かれると・・・あ!」
「はい?」
「動物園行きたいなぁ。」
「動物園、ですか。」
「うん。なんかね、新しくパンダが来たらしいよ。」
「じゃあ、動物園に行きましょう。」
「いいの?」
「もちろんですよ。」
「いつ行く?」
「じゃあ、今からでも行きましょうか。」
「ええ!?」
相変わらずの突発的な行動に、やはり驚いた。
まさか今行こうだなんて、さすがに思わなかった。
唐突にもほどがある。
時間はまだ昼を過ぎたばかりだった。
「急だなぁ・・・!!」
「善は急げっていうじゃないですか。さんと出かけられるのに何日も待ってられません。」
「もっと可愛い服着てくればよかったな・・・。」
「十分可愛いですよ。」
そんな会話をしながら竜崎はの手を引っ張り、外へと連れ出した。
ワタリに運転を頼み、動物園に行くよう言った。
どんな道でも把握しているのか、ワタリは安全運転かつ、最も早いルートで動物園へと連れていってくれた。
竜崎もすごいが、ワタリもとてもすごい、はいつもそう思っていた。
ワタリの気配りや優しく笑うところが大好きだった。
動物園に着き、竜崎達を降ろすと『ごゆっくり楽しんできてください。』とにこりと笑った。
「わー、何年ぶりだろう、動物園なんて。」
「私初めてです。」
「そうなんだぁ。」
じゃあいっぱい楽しもう、そう言って竜崎の手を握った。
嬉しそうに笑う彼女の顔を見て、竜崎も頬を緩めた。
「何見る?」
「なんでもいいですよ。・・・あ、サルがいます。」
「サル可愛いね。」
「さんの方が可愛いです。」
「・・・サルと比べられても・・・。」
動物園へは来たことがない竜崎だったが、動物のことはよく知っていた。
知識豊富というのだろうか、その動物の生態についても大体知っていた。
流石というべきか、は感心した。
「うさぎ抱っこできるって!」
「抱っこしますか?」
「したい!」
「いっぱいいますね。」
「うさぎって寂しいと死んじゃうんでしょ?」
「嘘ですよ。ガセです。」
「え、そうなの?」
「はい。うさぎって性欲が強いんですよ。」
「・・・・・・・・なんの関係があるのさ。」
「うさぎは生後四ヶ月から死ぬまでずっと発情期です。そのため、一羽でいることにより性的欲求がたまり
ストレスで死んでしまうということですね。『性欲の不満及び蓄積によるストレスによる心労死』といったところでしょうか。」
「・・・・・・ガーン。なんかショック・・・・。」
竜崎のロマンも可愛さのかけらもないうさぎについての実態を聞かされショックを受けたが
それでもうさぎが可愛いことには変わりはなく、は嬉しそうにうさぎを抱っこした。
その後も動物ふれあいコーナーで色々な動物にエサをやったりなどしては楽しんでいた。
「いやー、癒されるねぇ。」
「そうですね。」
「パンダ行こうよ、パンダ!」
「はい。」
子どものように楽しそうにしているを見ているほうがよっぽど癒される、
竜崎はそうも思ったが、口には出さなかった。
パンダはやはり人気者で他の動物よりも人だかりが出来ていた。
も檻の中でモソモソと活動しているパンダを見て目を輝かせた。
「うわぁ、可愛い!!愛らしい!!」
「そうですね。」
「子パンダもいるよ!やばい、すごい可愛い!!」
「いつになく興奮してますね。」
「可愛いんだもん。」
「可愛い姿の裏は凶暴な熊ですよ。目の周りの黒いのがなくなったら目つき悪いですよ。」
「・・・・・・また夢のないことを。いいの!可愛さが売りなんだからそんなこと言わないの!」
「そうですね。」
笹の葉をモグモグと食べている姿はの言うとおり愛らしい。
動きがのっそりとしているためか、パンダの行動一つ一つがとても可愛い、きっとそれも人気者の理由の一つなんだろう、
竜崎はパンダを見ながら冷静にそう考えた。
実際隣でも『のそのそしてて可愛い』などと絶賛していた。
それにしても、初めてパンダを見たわけでもないのにこんなにはしゃぐなんてらしい、そう思った。
竜崎がそんなことを思っているとがポツリと言葉をもらした。
「パンダって・・・」
「どうしたんですか?」
「パンダって、なんか流河君に似てるね。」
「・・・・・・。」
「ゴメン、嫌だった?」
「嫌とかではないですけど、・・・またなんでそんなこと思ったんですか。」
「目の周りとか・・・」
「・・・・パンダのは隈じゃありませんよ。」
「でも似てるもん。あとなんか動きがのそのそしてるところも。」
「私のそのそしてますかね・・・。」
「うん。なんか食べてるときとか、あとソファから立ち上がるときとか。」
「そうですかね・・・。」
「うん、可愛いし。」
「・・・可愛い?」
「うん。流河君可愛いよね。」
「・・・・・嬉しいんですけど、なんとなく微妙な感じです・・・。」
ニコリと笑いながら竜崎を見てそう言うに少し戸惑いながら、パンダを見る竜崎。
似ているだろうか、そんなことを思いながら。
だけど彼女が喜んでいるなら別に構わないか、そう思った。
相変わらずパンダはモグモグと笹の葉を食べていた。
まぁ、何かを頻繁に食べていたりするところは似ているかもしれない、少しだけそう考えた。
「パンダも見れたし!いやぁ、良かった!」
「大満足ですね。」
「うん。マンドリルも可愛いかったね。」
「・・・・・可愛いですか?」
「おしりがカラフルで。」
「お尻がカラフルなら可愛いんですか。」
パンダを見た後も、動物園にいる動物を一通り見るためグルリと園内を回った。
はパンダ以外にもマンドリルがお気に召したらしく携帯の写真にその姿を収めていた。
ふと、が園内にある土産屋に目をやると『あ!』と何かに気づいたらしく、竜崎に言った。
「流河君、ちょっと待ってて!」
「はい?」
「すぐ戻ってくるね!」
「はぁ・・。」
言ったとおり、ものの5分足らずで戻ってきた。
何かを買ったらしく、手に袋を掲げていた。
「どうしたんですか?」
「はい、これあげる。」
「・・・なんですか?」
「開けてよ。」
「・・?」
渡された袋の中身を不思議そうに開けてみると中に入っていたものを見て竜崎ははチラリと見た。
はニコリと笑って満足そうにしていた。
「パンダのストラップ。」
「見れば分かりますよ。」
「えへへ。私も買っちゃった。おそろい。なんか流河君に似てるでしょう?ほら・・・。」
可愛らしくデフォルメされたパンダのマスコットがついたストラップ。
それを竜崎と、そして自分に買ってきたのだった。
理由はもちろん、『竜崎に似ている』である。
デフォルメされたパンダは確かに竜崎に似ていなくもなかった。
だからこそなんとなく竜崎は複雑な気分になった。
「ありがとうございます。」
「えへへ。流河君に似てるからってのもあったんだけどね、」
「?」
「おそろいのとか、なんか欲しいなぁ、って思って。・・・なんて。」
照れくさそうにはにかんだ彼女を見たら自然と笑みがこぼれた。
なんでそんな可愛いこと言ってくれるんだ、竜崎はそう思う。
シンプルに今までストラップがついていなかった彼の携帯だったが、から渡されたストラップを自分の携帯電話にくくりつけた。
それを見ても『私もつけよう』と自分の携帯にそれをつけた。
「今日はいきなり誘ってしまってすいませんでした。」
「えー、何言ってるの!すごい楽しかったし、嬉しかったよ!ありがとう!お仕事も忙しいのに・・・。」
「そんなことは気にしなくていいですよ。私がさんとどこかに出かけたかったんですから。」
「流河君、外出とか好きじゃないのに、大丈夫だった?」
「はい。一人だったらそれこそ嫌で仕方ないですけどね。さんと出かけるなら嫌じゃないです。」
「えへへ。じゃあ、そろそろ帰ろっか。」
「はい。ワタリを呼んであります。」
「・・・早いね。いつ呼んだの?」
「さんが土産屋に入っていたときです。」
「へぇ。」
竜崎が言ったとおり、動物園を出ると駐車場付近でワタリが待っていた。
竜崎達が戻ってきたのを見てにこりと柔らかく笑って『楽しまれましたか?』と聞いた。
そのまま車での家まで送っていくことになった。
『泊まっていってくれればいいのに』と竜崎は少し我侭を言ったが、そうしたくてもそんなにしょっちゅうそんなことばかりしていられない。
も家のことをしなくてはいけない、ワタリにそう言われて拗ねたように『分かってますよ』と口を尖らせた。
「ありがとう、送ってもらっちゃって・・・。」
「いいえ。それより、戸締りとか気をつけてくださいね。あとインターホンが鳴ったら必ず確かめてから出てくださいね。」
「うん。大丈夫だって。」
「今日、楽しかったです、ありがとうございます。」
「私も楽しかったよ。」
「はい。では・・・」
「うん、明日も、行くかも。」
「はい、来てください。」
「じゃあ、行くね。」
「また近いうちにどこか出かけましょう。何処に行きたいか考えておいてください。」
「うん、ありがとう。考えておくね。」
そんな会話をかわしてから、別れを告げた。
『また近いうちにどこか出かけましょう』なんて、竜崎にしては珍しいことを言うものだ、
このときはそのぐらいにしか思わなかった。
竜崎がこの言葉に馳せた思いをが知るのはもう少し後のことだった。
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Lはパンダだよね。(えええ)