「・・・・やっちゃったなぁ。」
静かな部屋に独り言がポツリと浮かんだ。
頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。
隣の○○君
「竜崎、どうぞ。」
「あぁ、ありがとうございます。これ、さんが好きなんです。」
「だから今日届くようにしたんですね。」
「さんは桃のケーキが一番好きなんです。」
「喜んでくれますよ。」
「はい。」
ワタリから受け取ったそれは、が好物だという桃のケーキ。
わざわざ外国の有名な店から取り寄せたらしい。
が喜んでくれることを想像し、竜崎も嬉しくなり同時に早くが来ないかと待ちわびた。
「おかしいですね、いつもならこの時間に来るのに・・・。」
もしくは今から行くよ、と電話がかかってくるはずなのに、とそわそわしながら親指の爪を噛んだ。
すると待ってましたとばかりに竜崎の携帯が鳴る。
もちろん、ワンコールで出た。
「もしもし。」
『・・流河君?』
「はい。」
『・・・ゴメンね、ちょっと、今日行けそうにない・・・。』
「え?」
『ゴホッ・・ゴメン、なんか風邪ひいちゃって、』
がそう言ったと同時に、通話が切れツーツーという音が虚しく電話越しから聞こえた。
「・・・・切れちゃった。・・・・・・・・なんか、変な予感するな・・・。」
通話が切れてしまい相手の声が聞こえなくなった携帯を見ながら苦笑いする。
のそんな変な予感というものも後に当たってしまうことになった。
「ワタリ、跳ばして下さい。」
「竜崎、心配なのも分かりますが、一般道路なのでこれ以上は、」
「そんなこと言ってる間にさんが!!!」
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。」
「何呑気なこと言ってるんですか!一大事です!さんが・・!!」
風邪をひいてしまったんですよ!!
いつになく慌てた表情でそう言いながらワタリに食って掛かる竜崎。
そう、さっきから『風邪をひいた』とこの一言を聞いた瞬間に通話ボタンを切り、すぐさまワタリに車を出すように頼んだのだった。
もちろんこの有様なので仕事を放ってきたということになる。
「竜崎。」
「なんですか。」
「風邪をひいてらっしゃるんですから、あまりご迷惑にならないように」
「私は小学生ですか。」
クスクスと笑い、の家の前で車を止めた。
急いで車から降りる竜崎はワタリに後はもういい、と告げた。
「・・・・・風邪なんて久しぶりかも・・・。あんまりひいてなかったから薬もないなぁ・・・。」
後でライトに電話しようかなぁ、なんて思っていたところだった。
ピンポンピンポンピンポンピンポン
なんの嫌がらせだろうか、とも思うぐらいのインターホンの嵐。
それを聞いては思わず頬が緩んだ。
こんなことをするのはいつも一人しかいない。
風邪で重いはずの体なのに、なんだか少し軽い気持ちで玄関先へと向かった。
「いらっしゃい〜・・・。」
「さん!!大丈夫ですか!?ていうか誰だかも確認しないで出てこないでください・・・!!!」
「だって・・・インターホンいっぱい鳴らすの流河君くらいだから・・」
「私じゃなかったらどうするんですか・・・あぁもうそんなこといいです・・・。すいません・・突然・・。」
「ううん・・・なんか電話途中で切れちゃったから、なんか変な予感はするなぁって思ったから・・・。
まさかこんなに早く来てくれるとは思わなかったけどね・・・。」
でも嬉しいな、と、ヘヘ、と力なく笑う。
そんなを見て竜崎はなんの予告もなくおもむろにを抱きかかえた。
所謂お姫様抱っこというやつで。
「えっ、ちょ、りゅ、流河く・・・」
「すいません、辛そうなのにここまで出てきてもらって・・・。部屋まで運びますから。」
「いいいいい、いいよっ・・・!!!重いから!!!」
「何処がですか。いいから、運ばれてください。」
竜崎の言うとおり、体が重くてダルいのは確かだった。
こうして二階にある自分の部屋まで竜崎がこうしてくれるのは非常にありがたいことだったのだが、
まさかのお姫様抱っこには顔を紅くした。
自分の抱きかかえている腕は細いものなのに、なんでこんなに力強いんだろう、そんなことを思いながら部屋まで運ばれた。
「あ、ありがとう・・・。」
「熱は。どのくらいあるんですか?」
「・・・・38.5。」
「すごい熱じゃないですか・・・。何か食べましたか?」
「ううん・・・作る気力も食べる気力もなくて・・・。」
全く、と口を尖らせる竜崎を見て思わずクス、っと笑った。
「流河君に、そんなこと言われるなんてね・・・。」
「どういう意味ですか。」
「いつもは自分の体調なんて気にしないし、前に風邪ひいたとき自分だって何も食べてなかったでしょ・・?」
「それとこれとは別です。さんは駄目です。」
「・・あは・・なにそれ・・・。」
「よし。こうなったら私が作りましょう。」
「え!!?ッ・・ゴホッ・・・。」
「なんですか、その驚きよう・・・。」
「だって・・・料理とかしたことなさそう・・・。」
「したことがなくてもなんとなく、勘で出来ますよ。」
あぁ、やっぱりしたことはないんだ、と内心思ったが何か出来るような気力がない今、
竜崎のその好意に甘えさせてもらおうと思った。
「台所のもの、借りていいですか?」
「ん・・・いいよ・・。・・・大丈夫?」
「大丈夫です。何か食べたいものありますか?」
「・・・・からあげ。」
「何馬鹿なこと言ってるんですか病人なのに・・・。おかゆでいいです。」
ちゃんと寝ててくださいね、とひとこと言って竜崎は台所へと向かった。
最初からおかゆにするつもりだったんだろうに、だったら何故食べたいものを聞いたんだろう、そう思った。
一応聞くところがなんとなく嬉しいな、はそう思いながら竜崎が戻ってくるのを待った。
「できました。」
「・・・・おかゆだ。」
「おかゆですよ。からあげなんて作りませんよ。」
「いや・・・そうじゃなくて・・・。ううん、ありがと・・・。」
「・・・・ちゃんとおかゆの形になってるかどうかってことですね。」
「・・・・うん。」
数十分もすると竜崎がおかゆを手に部屋に戻ってきた。
なんだかおかゆを持って来る竜崎の姿が似つかわしくないもので、滅多に見ることができない貴重な体験だ、
呑気にそう思っているとスッとおかゆを差し出される。
が思っていた以上にきちんとした出来上がりになっていて、竜崎の『勘』というものはなるほど
頼りになるものだ、そう思った。
「えへへ・・・」
「どうしたんですか?」
「んー・・流河君の作ったものなんてそう食べられる機会がないだろうなぁ、って思って・・・。」
「そうですね。実際作ったの初めてです。」
「嬉しいなぁ・・・。」
「さんだから作ったんですよ。ほら、食べれますか?」
「ん、食べる・・・。」
「はい。」
「え?」
「口開けてください。」
アーン、という形でおかゆの乗ったスプーンをの口元に運ぶ竜崎。
自分で食べられるから大丈夫だ、と言っても多分聞かないだろうと思ったは素直に口を開けた。
「・・・・・おいしい。」
「卵、使わせてもらいました。」
「ん・・おかゆってあんまり好きじゃないけど・・・おいしいね、これ・・・。」
「そうですか。」
「・・・・ありがとう・・・。」
「今度は、」
「・・ん?」
「逆ですね。」
「え?」
「前は私が看病してもらいました。」
「・・あ、うん・・・でもあのとき看病っていうか一緒にいただけだったけど・・・」
「結果的に治ったのでいいんです。」
はいどうぞ、そう言いながらまたスプーンをの口に運んだ。
お椀の中のおかゆがなくなるまでそれが続けられそれが終わったあとはワタリに頼んで持ってきてもらったのか
薬をに差し出し飲ませた。
ちょうど薬がきれてたから助かったなぁ、なんては呑気なことを言うと熱のせいかそのままグッスリと寝てしまっていた。
* * * *
「・・・・真っ暗だ。」
目が覚めたとき部屋の窓から見える外は真っ暗だった。
そんなに寝てしまったのかと思いながら伸びをすれば体が先程よりも幾分軽くなっていることに
熱も下がってきたのだろうと実感した。
ふと隣を見れば、椅子に座って小さく体育座りをしたまま顔を膝にうつ伏せて寝ている彼の姿があった。
「・・・ずっといてくれたんだ・・・。」
仕事も忙しいはずなのに。真っ先に自分の所へ来てくれて。しかもこうして看病までしてくれて。ずっと一緒にいてくれて。
自分は本当に幸せ者だ、そう思うと自然と頬が緩んだ。
竜崎の肩にそっと毛布をかけようとするとぎゅっとパジャマの袖を握られた。
「あ・・起きちゃった?」
「いえ・・すいません、つい寝てしまいました・・・。」
「ううん、ありがとう、ずっといてくれたんだね。」
「はい。さんの寝顔見てたらいつの間にか寝てしまいました・・・。」
「ごめんね、流河君疲れてるだろうに・・・」
「そんなこと気にしないでください。それより具合はどうですか?」
「うん、おかげさまですごく体軽くなった。」
「そうですか、良かったです。」
目を細めてふっと笑いながらそのままを自分の方へと抱き寄せた。
「風邪移っちゃうよ。」
「大丈夫です。もし移ってもさんから移されたんならいいです。」
「なにそれ・・。そしたら看病してあげるよ。」
「あぁ・・だったら風邪移してもらうのも悪くないですね。」
「何言ってんの・・・。」
「あぁ、そうだ。」
「ん?」
「さんの好きだと言っていたケーキ取り寄せたんです。早く治して一緒に食べましょう。」
「うん!」
やっぱり元気な貴女が一番です。
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前は竜崎だったんで今回はちゃんに風邪ひかせました。
看病する竜崎って良い。