何も考えたくなくなったのは、生まれて初めてだった



考えるのは、彼女のことだけでよかった

他になにも考えたくなかった








































頭脳は大人、中身は子ども。それでも彼は世界の切り札。



隣の○○君















































彼女の涙を見たのは、これで二回目

足元にいる子猫のエルが雨の中置き去りにされていたとき

そして今

私の目の前で涙を流した

私の言葉で
































「竜崎、いいですか?」

「なんだ、ワタリ。」

「大事なお話が・・・」














ワタリにそう呼ばれた

大事な話、なんていうのは珍しいことではなかった

だけど、いつもと違ったことはワタリの表情がいつもよりも少し曇っていたこと

でもそんなことは気にせず私はワタリの話に耳を傾けた

















「イギリスで起きている連続殺人事件の件ですが─・・・」

「それならこの前資料を貰いましたよ。」

「いえ─・・やはりこの事件に関してはイギリスに身を置き調査するのが最善だと思われます。」

「・・・イギリスに、ですか?」

「はい。こうして日本国内で調査していくこともできますが、やはり事件現場に身を置くことと比べますと出来ることにも上限が出てきます。

特に今回のこの件は─・・・いつものように解決している殺人事件のように簡単にはいくとは思えません。」












イギリスに身を置き事件を調査する

ワタリにそう言われたときに、私はまず最初に彼女の顔が頭に浮かんでしまった

イギリスに行き、現場に身を置き調査をするということはちょっとやそっとで帰ってこられる問題ではない

もちろんそれは、事件が解決するまで

事件がいつ解決するかなんて分からない

それ故に、私がイギリスへ行くということはさんと制限のない距離を置くということ












「─・・そうですね、資料を拝見しましたがいつもとは何かが違う気がします。」

「竜崎─・・・」

「・・・なんですか?」

「如何されますか?」

「─・・・何を聞いているんですか?」














ワタリもこの事件の話をするときにそのことを思ったようだった

私に気を使うように、そう聞いた

何を馬鹿なことを聞くんだ

今まで一度だってそんなこと思わなかったのに

─・・・行きたくない、・・・だなんて

だけど私は─・・・


















「私が行かなくてはどうするんですか。他に誰かがやってくれるとでも?」

「いえ─・・・」

「でしたら、そのようなことは」

「竜崎・・・」

「なんですか。」

「─・・・もちろん、竜崎が行かなくては解決することは出来ないでしょう。そしてそれが貴方の役目でもあります。

ですが─・・・選ぶ権利は貴方にもあることを、忘れないで欲しい。」














ワタリにそんなことを言われたのは初めてだった

選ぶ権利、そんなものはないと思っていた

私は“L”だ

目の前に事件があってそれを放棄することは私の意志に反する

だけど

その意思さえも覆したくなるぐらい、私は迷った















「・・・私がイギリスに行ったら、さんと離れるということになります。もちろん、別れるなんてこと、考えたくはありません。

ですが・・・万が一別れる、ということも可能性にいれておかなくてはいけません。」

「・・竜崎。」

「私は・・・さんのことが好きです。心から。初めて、人に対してそういう気持ちを抱きました。大切にしたいとか、

もっと一緒に時間を過ごしたいとか、初めてです。」

「・・・・。」

「ですが、・・・それとこれとは別です。」

















行かなくてはいけないんです、私はそう言った。

私がそう言うと、ワタリももう何も言わなかった。

だけど、そう言ったことに対して私は後悔してしまった。

その話をした後から、私はそのことばかり考えるようになった。

実際さんと離れることを考えたら、嫌でたまらなくなった。

ずっと一緒にいたいと、ずっと彼女の笑った顔を見ていたいと、そんな想いが募るばかりだった。

考えれば、考えるほど。

鬱陶しいぐらいだった。

そんな気持ち、今まで知らなかったのだから。

だけど、私は事実さんが好きでたまらなかった。
















何日も経ったある日だった















「─・・・竜崎。」

「なんだ、ワタリ。」

「・・・例のことは、さんにはお伝えになられたんですか?」















私はさんにこのことを言えずにいた。

怖かった。

言って嫌われるのが怖かった。

誰から嫌われてもかまわなかった。

だけど、彼女に嫌われることだけは、─・・・本当に怖かった。

それに、そのことを言って彼女が傷ついたりする顔は見たくなかった。

なによりも─・・・別れを切り出されるんじゃないかと、怖かった。

結局私は、自分の身こうして守っているにすぎなかった。

















「・・・・・言っていない。」

「そうですか─・・・。」

「・・・いずれ、言います。─・・・ワタリ・・。」

「はい、なんでしょう。」

「・・・・どうしても、か?」









決意したくせに、揺らいだ。

こんなことは初めてだった。









「・・・・竜崎、気持ちは分かりますが─・・・」

「・・・分かっている。忘れてくれ。」

「はい─・・・。」
















そう、もう後戻りはできない。

“行く”と決めたときから、もう私と事件は闘っているも同然だから。





























「しばらく会えなくなります。」





「どうしても日本を離れなければいけなくなりました。事件がいつ解決するかも分かりません。」





「イギリスに行きます。」














言葉を発するたびに、なんだか心臓を掴まれているような、そんな苦しい気持ちになった。

目の前で私のその言葉にただただ驚く彼女を見て、怖かった。







─・・・キラワレタクナイ


















「・・・・さん、私は、Lです。」






「それを言い訳にするつもりはありませんが、それ故に普通の民間の方とは異なった生活を送ることが多いです。

そう、今回のようなことだって、珍しいことではありません。よくあることです。」






「それを、分かっていただきたい。」
















だったらもう、こうする他考えられなかった











「もし、それが無理であるなら、」














ただ逃げている



そんなのは自分でも分かっていた



だけど

























「─・・・別れましょう。」
























─・・・キラワレタクナカッタカラ
















言われる前に、言ってしまおうだなんて、私はつくづくずるい人間だ


結果彼女を泣かせてしまった






もう後戻りはできなかった















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